死闘が繰り返された。触手との死闘が。

 といっても、マレイアスはまったくの無傷……
 これが現実だといわせる……


 じっと仇を見るマレイアス。女騎士の目が光る……

 その目に徐々に押されていくサルン。上空にいるサルンだが、下から見下ろされているような感覚に陥っている。あきらかに劣勢なのはサルンだ。信じられない行為が続く、続くのだ。

 女騎士が、ちょっと前にのめって上空にいるサルンを見る……

 引いた……サルンが引いた……

 恐怖で引いたのだ……あのサルンが。
 あのダークエルフの王が……

 傲慢で、女を道具のように見ていた少年が……

 人間の女騎士に……



 引いた……

「お、お……おおお……」
 表情が違う。明らかにあせっている少年王。マレイアスには、本格的に傷つけられてはいないサルンだが、この状況はもう追い込まれているようだ。

(ばか……な。こんな……ばかなああああああああああっ!)

 初めて、信じられない行為を目にしたサルン。考えられない状況がサルディーニを襲っている。心が逃げよと……逃げよと言っている……


 (逃げよ? 逃げるだって?)

 ダークエルフの王子に逃げよとは何事だと、心に言い返すサルン!
「ばかな! 許されない!――」
 独り言を叫ぶサルディーニ。そして女騎士をにらむ!

「降りて来い! サルン! 勝負しろ!――」
 赤いドレスが、叫んでいる! 人間の女が、ダークエルフに向かって、勝負しろと。

 目が血走る少年王子!

 (ふざけている……そうとしか思えない)
 上空から見下すサルン。しかし、とても見下している状況ではない。あきらかに焦りが見える少年。それを必死にかき消そうとしている。


「はああああああああああっ!――――」
 サルンがさらに上空に飛んだ!――

 何をするつもりか?

 (このまま叩きつけてやる!――)

 結界で地面のようになっているマレイアスの場所。結界はサルンが作っているのだ。結界をはずせば……


(ふふ、落とすだけじゃないよ……)
 冷酷に笑う少年。右手をスッとあげた……


 そして、邪悪な黒い玉を作り始める……


「たたき落としてやる……」
 もはや后を見ている目ではない。ただの殺人鬼だ。
「なにいいいい〜?」
 マレイアスも事態を把握できていない。落とされたら……この高さなら、マレイアスは確実に死ぬだろう。

 ただ落とすだけではなく、邪悪な巨大玉と共に葬り去ろうというのだろう。

 見る見る大きくなっていく、光の玉。怨念がこもったような玉は、辺り一面の大空を覆い始めた。


 構えるマレイアス。もちろん剣をだ。だが、神聖エルフの剣は、邪悪な玉からを守ってくれるものではない。それでもマレイアスは構えた。今、自分に出来ること……それはこの構えることぐらいなのだ。
 その気になれば、いつでも落とせるサルン。この上空の高さから落とせばマレイアスは助からないだろう。しかし、地面に落ちる前に、他の王族エルフが手を差し伸べれば……


 もちろん、予想済みだ。だから、この巨大な玉で葬るのである。
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