それから数日後……

 屋敷の前でうろうろしているおじいさんがいる。ブックル老人だ。横にいるマメリアお嬢様も一緒に心配している。

 ――まだ目覚めぬか……

 心配で仕方ない老人。娘のために身を犠牲にしてくれた、女騎士に対してだった。
 そわそわしている。

「旦那さま、旦那さま!」
 メイドのおばさんが駆け寄る。
「なに? 目覚めたか! そうか!」
 顔が明るくなった老人。マメリアの表情も一気に明るくなった!

 二人は早速マレイアスに会いに行く!




「大丈夫?」
 ランカが心配そうだ。
「ああ……もうだいぶんいい……」
 あれからベッドで3日寝ていたマレイアス。ひたすらひたすら寝続けたのだ。

「ブックルさま、喜んでたわ」
「騎士冥利に尽きるよ」
 ブックルとマメリアの喜びようはすごかったのだ。そりゃそうだろう。セイキンも先住民エルフたちも大喜びだった。

 今は、ランカが話があるとかで、ここにいる。
 目覚めたら話さなければならないことらしい。マレイアスも聞きたいことはいっぱいあるだろう。

「よかったわ……ほんと」
「どうも……」
 顔はまだ赤い。だが、身体は回復しているようだ。ゆっくりと起き上がる。
「もういいの?」
「ああ、全然疲れもない……それより、聞きたい事があるんだ」
「サルンのこと?」
 もちろんそれだろう。

「なぜ……あいつは……」
「あなたを愛していたからよ」
「え?」
 いきなり何を言うと思うマレイアス。

「愛して? あいつが?」
「ええ……」
 
 ランカは静かに事の詳細を言い始めた……


――想いこそ、弱さなり。想いこそ、弱点なり。想い人に悪魔は討ち滅ぼされるものなり――

 これは、愛している者を、本気で攻撃できない、傷つけることができないという意味だったのだ。
 だから、サルンは、マレイアスを殺す事ができなかった……

 あそらく、何百年前も同じだったのだろう。


「……そう……か」
「納得した?」
「……信じられないけどね」
 それはこっちのセリフよと言いたいランカ。ミレーユとエルディーニが見つけた物が、ここまで役に立つとはという気持ちだ。

「愛してたか……ふふ」
 苦笑いのマレイアス。
「サルンは動揺したでしょうね、あなたになぜ攻撃できないかが、わからなかったから」
「……あいつ……最後に悟ってた」
「え?」

 ――そう……悟ってたはずだ


 ……でないとあの表情は……ない。


 ――あいつ……あれが愛情表現だったというのか? あれが、サルンなりの……最後の

 身体を徹底的におもちゃにされた、恨みはある。しかし、サルンのあんないびつな愛情は、ちょっとだけ理解できる。しかし、やっていることは最悪だったが。

「それで……お願いがあるの」
「うん?」
 マレイアスがランカを見る。

「今回の一件で、あなたを招待したいのよ」
「招待?」
「ええ、ダークエルフの英雄としてね」
「…………」
 英雄と言われて照れるマレイアス。

「ただ……」
「……なに?」
「サルンを倒したということは事実でいいのだけど……」
 ちょっと言葉を濁すランカ。

「なるほど……サルディーニではないということか?」
「あら……」
 頭の切れが早いマレイアス。サルンはサルディーニではなく、あくまで大悪党サルンということにしたいらしい。そして、その大悪党を倒した英雄は、マレイアスということにしたいようだ。


「ブックル様にも了承は得ているの」
「手回しが早いね、そういうことは」
「軍人ですから」
 にこっと笑うランカ。どうやら、国の意思の伝言役できたらしい。

「とにかく大歓迎するつもりよ、それだけは間違いないわ」
「ふ〜ん……まあいいけど。そうだ……あの女たちは?」
「全員処刑の予定だわ。裁判中だけどね」
 国家反逆罪で起訴されているミシェルンたち。あのインリも被告人だ。いずれ処刑されるのだろう。

 ランカは寂しいかもしれない……が。


「処刑……」
 ちょっとブルッとくるマレイアス。
「当然よ、あれだけのことしでかしたのよ。サルディーニをあの女たちは利用したのよ」

 ミシェルンはサルディーニが、王になれば、自分はその后になるつもりだったらしい。

「……まあ、他の国の裁判の結果には文句は言わない」
「ありがとう、ところで、あなたのために薬を持ってきたの」
「薬?」
 ランカが妙な錠剤を取り出す。

「今すぐこれを呑んで頂戴、サルディーニから……された治療をしないといけないのよ」
「……なるほど」
 なんの疑いもなくマレイアスは薬を飲んだ。


すると……身体の力が抜けていく。

「え? ええ?」
 時すでに遅しであった。
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