一瞬にして、鮮血が飛び散る!
 身体が止まったサルディーニ。

 ダークエルフの王の身体が女騎士によって、停止させられた……
 現実を未だに受け入れられないサルディーニ。

 この状況下でも、

 もがく! あえぐ! だが、身体がもがいているのではない。


 心……心が……

 
 大きな口を開けるサルン! だが、これだけではダークエルフの王は死なない!

「あが……あががああああああああっ……」
 最後の断末魔だ。

 すると、サルディーニの表情が穏やかになった……

 そして目に……目にやさしさが見える……マレイアスをじっと見ているサルン。

 じっと見ているサルン。

 そう……まるで、いとしい后のように……


 ――マレイアス……そうか……

 ――マレイアス……マレイアス……

 消えゆく意識の中で、最後に悟ったサルン……
 最後の、最後に……悟ったのだ……

 その証拠が透き通った目であった。清き目が……その目が、最後にマレイアスを狂わせる。

 一瞬と惑うマレイアス。

 少年の澄んだ瞳に……うっすらと涙が……

 動きを止める涙。それほど、この目と涙は、本物だった。裏がないのだ。


「マレイアス! 殺して! 止めをさしてええええええええええっ!――――」
「殺さなきゃいけないのよ! マレイアス!―――― サルディーニは殺さないといけないの!」
 ラゼが、声を思いっきり振り絞って言う!

「お願い! マレイアスうううううううううううううううっ!――――」

 その悲痛の言葉にマレイアスは再び動いた!
 ここで止まるわけにはいかない、いかないのだ!






「ぐぎゃああああああああああっ!――――」
 脳天に突き刺さる神聖エルフの剣!










 頭から血しぶきがいきおいよくあがる! すさまじい表情でサルディーニが……


 マレイアスを見る……

 そして……また穏やかに……なった。穏やかになった目で見るサルン。
 穏やかな……目で……

「サルン……さらば……」
 マレイアスが一言だけ……一言だけ、つぶやいた。その言葉に呼応するかのように、コクッとうなずくサルン。
 まるで何かを悟ったように……

 手のピクピクという動きが止まった。さらに、瞳が消える……

 身体が、少しずつボロボロになっていく……
 剣に刺された部分が、砕けていく……
 少年の顔が崩れていく……
 
 骨が溶けていく。まるで、土に帰るように……
 

 その様子をじっと見ていたマレイアス……

 ――馬鹿……
 そう一瞬だけ、思う女騎士……


 そして……その場に倒れた。


「マレイアス! マレイアス!――――」
 ラゼが駆け寄った! 続いて、ラブゼン、エルディーニ……そしてミレーユ……
 一斉にみなが英雄に向かっていく!

 そして……ランカ……も。


 この最悪の状況を、絶望的に見ていたのは、ミシェルンたちだけであった……

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