ラブラブ状態のマレイアスと別れた後、再び情報と捜索にあたる連隊長。自由にダークエルフ国内を飛びまわっている。表向きに特別軍人として動いているのだ。

 だが、あれから情報はまったくない。

「う〜ん」
 もう一ヶ月近く。やっていることといえば、ただただ国内をグルグル回っているだけ。 怪しい人物情報などを手がかりに動き回っているのだが、一向に解決の糸口もないのだ。 さすがにいらつくランカ。長い脚を組んで貧乏ゆすりをしている。

「噂……? 作り話? まさかね」
 そう思いたくなるほど、進展がなかった。いらつくランカ。
 なんとなく窓の向こうのお店を見る。

「あそこ、おいしいもの売ってるの?」
 横にいる部下に聞く。
「あ、はい……ミルクや、パンなどがありますが……」
「じゃあ、ちょっと買って……」
 もう、食欲でも満たさないとストレス発散も出来ないようだ。
 その時だった、

「連隊長殿」
 部下が入ってきた。
「どうしたの?」
「不審者があらわれたようです」
「……また……ね」
 不満そうなランカ。もう何十回不審者を取り調べたことか。

「わかったわ、行きましょう」
 することがなく、不審者の洗い出しをやっているランカたち。
 そうすることぐらいしかない状態なのだ。

 だが、この時、目の前の店に行けば、進展があったかもしれない。
 なぜなら……



 お店から出てきた二人の女性。一人はベールを被って、顔を覆っている。
 どうも顔に傷があるらしい。そういう女性はこういうベールを被る。
「だいぶん、元気が出たようね。意識もはっきりしているみたいだし」
「ええ……」
 そう答えた女性。少女のようなタイプだ。しかし、この声、どこかで聞いたことがある。

「外出もまともに出来るようになったから、進展はあったわね」
 ニコニコ笑う。少女に向かって。

「はい……」
 少女の口元が緩む。
「じゃあ、帰りましょうか? インリ」
「はい」
 少女は答えた。

 はっきりと……
 ベールを被っている少女。傷を見られないようにという配慮だろう。
 顔に少しあるらしい。

 インリと名乗った少女と女性は、ゆっくりと歩いていった。



 そして……
 インリと言われて答えた少女と女性が来た場所は……

 とある、貸し部屋の一室だ。ここら辺は、貧困層が住むような場所。
 そこから地下に降りていくと、扉がある。二人はそこへ入っていく。

「先生、ただいま」
「帰ってきたか」
 めがねをかけた少年が二人を見る。風体は学者さんに見えるこの少年。

「体調はどうだ? インリ」
「いいわよ、だいぶん……ね」
 スッとベールを脱ぐ……


 な、なんと!――

 その顔は……まさしくあのインリ!――

 まさか、死刑判決を受け、身体を焼かれ、骸骨を埋められたはずのインリが……?

「まだ、無理はするなよ。もう一週間はかかるはずだ。ライファンもそれぐらいかかった」
「はい……」
 ゆっくりとベッドに寝るインリ。すると聴診器だろうか? なにやら調べている。横ではライファンという女性が側にいる。30代に見える未亡人といったタイプ。
 しっとりとした雰囲気がある女性だ。

 裸になったインリの身体を触る少年。だが、決してエッチな目ではない。
 これは、学者の目だ。

「よし、順調だ」
 クスッと笑う少年。
「よかったわね」
「…………」
 目を閉じたインリ。たしかにあのインリだ。体型も、ランカを排泄奴隷のように扱っていたあのインリである。

「寝たのか……疲れているようだな」
「でも……あのうめき声だけの時からみれば、大違いですわ」
「ああ、これでこそ、成功の証拠だ」
 目が輝く少年。
「さて、僕は部屋に戻るよ、このデーターの研究だ」
 サッサと出て行く少年。もうインリには興味がないようだ。

「…………」
 寝ているインリを見るライファン。

 ――この子……もうすぐ……現実がわかる……
 ――その時は……どういう顔するのかしら……

 じっとインリを見る。ライファンは今後のことを考えていた。
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