インリが、ウッズ先生とライファンにサルンの話をしようとしている時、
 こちらでは、考え事をしていた、ダークエルフの女軍人が一人。

 ――どうも気になるわね。

 地元ミルゼバに戻ったランカ。戻ったのはいいが、未だに納得できない。
 狂言とはとても思えない。しかし、その後の進展がないので、どうしようもないのだ。

 ――ああ〜すっきりしない。
 ワインを飲みながらくつろぐ。しかし、ストレスは取れない。むしろ、募る。
 
 どうして「ランカはどこ」なんて言葉が出てきたのか?
 墓泥棒? もしかして、ゾンビ?

 そんな話、聞いたこともない。
 死刑になったエルフが……

 スラッとした長身の脚を組む。きれいな脚だ。バスローブに身を包む姿がまぶしい。
 この肉体をインリは……

 ――ああやだ。
 あのおぞましき少女の責めに、ゾッとするランカ。
 忘れていたはずの思い出が蘇ってしまう。

 ――寝よう。明日もあるし。
 
 ランカがベッドに向かった。忘れようとする女軍人。
 

 そして……研究室では……とんでもない事実が話される。



「あ、あの……サルンが……」
「それほんと?」 
 ライファンが聞き返す。さすがに、信じられないのだ。

「本当よ、どう? びっくりでしょ?」
 インリの話は、事の重大さがでか過ぎる。

 サルンとの出会いから、マレイアスに倒されたこと。
 さらに、めちゃくちゃな裁判で強引に死刑……

「サルンというのは、人間の娘を片っ端から襲っては殺していたらしいな。さらに、貴族の娘や、シスターなど限定していたと聞く」
 ウッズも真剣だ。

「それがあの亡くなったサルディーニ王子だっていうの?」
 まだ信じられないライファン。
「そうよ、これが国中にしれたら大変よ」
「だろうな」
 ウッズも、ダークエルフの国の事情には詳しいようだ。

「一国のダークエルフ王になる予定だった王子が、人間の娘をレイプして、人殺しか。そりゃあ、ばれれば大変だ」
 笑うウッズ。こんな面白い話を聞けるとは思ってもいなかったらしい。

「私さあ〜 このこと広めたいのよ」
 インリが語気を強める。
「ええ?」
「やめとけ、消されるぞ」
 ウッズは冷静だった。

「だって〜 あんなむちゃくちゃな裁判で、強引に死刑判決よ」
「形だけとったのだろう。よくあることだ」
「う〜」
 納得行かない少女。まあ、気持ちはわかる。

「しかし、君はなぜ、あの墓地に葬られたのだ?」
「そうよね、罪人なら……」
 罪人なら一般墓地には葬られない。二人はこれが疑問らしい。

「そこのところはわからないわ」
 インリも事情は知らないようだ。死刑になった後のことまではわからない。

「ふむ……」
 少年先生が考えている。

 その間も、必死にしゃべっているインリ。ライファンが興味津々聞いている。ダークエルフの女性もおしゃべりは大好きのようだ。


 ――これは、とんでもないエルフを生き返らせたものだな。
 にやっと笑う。まさか、こんな国家機密のような話を聞けるとは、思わなかったウッズ。
 これが人間の国でも広まれば、さぞかし大問題になるだろう。

 二人は、世間話のようにしゃべっているが。それをじっと聞いているウッズ少年。

 ――使えるな……この情報は。これから、面白くなっていくような気がする。
 二人のやり取りを見ながら少年はそう思うのであった。



 サルンのことをインリが話してから、一週間ぐらいたった。
 
「見回りも疲れるな」
「まったく」
 ダークエルフの兵士達が、歩いている。どうやらパトロール中らしい。
 すると、妙な女性を見つける。

 うろついている人間の女が一人。ただうろついているだけなら、他にもたくさんいるのだが、この娘に会うのはもう三回目であった。

 ――う〜ん。確かにここにいるみたいね。

 インリだ。ミルゼバにやってきたのだ。情報屋を通じて、ランカの居場所を突き止め、とうとうここにきた。情報屋にとって、表で動いている軍人の居場所などは、たやすい。
 うろうろしているインリ。今や人間も、ダークエルフ国内では、たくさんいる。
 経済交流も盛ん。
 住んでいる者もいるし、商売をしている者もいる。

 しかし、今のインリの行動は明らかに目立つ。

 ――やっぱり、今は引き返そう〜
 そう思った時、両腕をがっしりと掴まれる。

「きゃあああっ!――」
「何者だ」
 兵士達が尋問する。つかまってしまった。

「離してよ、なにするのよ!」
「そうはいかない、何でうろうろしていた!」
 尋問が始まる。周りが騒がしくなった。すると他の兵士も出てくる。

「どうした?」
 他の兵士がよってくる。
「怪しいと思い、尋問中だ」
「離せ! 馬鹿!」
 抵抗する少女。ちょっとまずい展開になってきた。すると……

「どうしたの?」
「あ、連隊長殿」

 ――あああああああああっ!――

 なんとランカ……

 ついにご対面の二人。だが、インリはサッと顔を下に向ける。
「どうしたの?」
「この者が、うろついていたので……」
「…………」
 何気なく少女を見るランカ。

「顔をあげなさい」
 連隊長が言う。観念したようだ。サッと顔を向けた……

 ――え?

 ――ええ?   

 ――――なにいいいいいいいいいいい?

 そこには間違いなく……あの忌まわしき少女の顔が……

 にこっと笑うインリ……

 ランカの身体がビクッと震える。本能だ。

 本能が危険を伝えている!

「…………久しぶりね、ランカ」
 冷や汗状態のインリ。だが、口だけは達者だ。呆然とするランカ。
 これがいまわしき二人の再会であった。


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