すぐさま、インリは尋問室へ入れられた。うむを言わさない。

「ちょっと、どこよココ!」
 なんでこんなところにと思うインリ。
「みな下がって」
「し、しかし……」
 尋問は複数が行なうように決められている。不正や、虐待がないようにするためだが。

「大丈夫だから」
 連隊長がそう言うのならと……みな引き下がった。ふう〜っと息をつくランカ。

 ――まさか……似過ぎてる。けど……

 思わず、連れて来てしまった。しかし、こいつは偽者と思っている。証拠は耳だ。
 ダークエルフ特有の長い耳ではない。これは人間と判断。

「何者だ」
「忘れたの?」
 ニコニコしながら言う。驚くランカ。

 ――こいつ……
 まだインリとは思ってもいない。

「オマエか? 最近狂言をしている者というのは」
「狂言? ふ〜ん……そうなってるの」
 笑うインリ。

 ――うううっ……
 ドキッとする。この無邪気な悪魔の笑いは……まさしく。

「お姉さまの身体は覚えているわよ」
「なっ!――」
 座って聞いていたランカ。ビクッと動いた。おっぱいが揺れる。

 おそるべき言葉だ。

 ――ま、まさか……
 インリとランカの関係は、ごく一部の者しか知らない。

「うふふ」
 笑うインリ。今度はランカが冷や汗モノだ。

 ――どういうこと?
 信じられないランカ。

 ――ふふ、おびえているわ。かわいいじゃない。
 余裕をかます少女だが、この状況はちとまずい。

「誰に聞いた? そして、どうしてそういう顔をしている?」
 面白い尋問だ。もう、こう言うしかないだろう。

「忘れたの? インリよインリ。あなたをペットにする予定だったインリよ」
「…………」
 声さえ出ない。
「元気そうね〜」
 
 ――こ、こいつ……
 もはや、何もいえないランカ。偽者か、本物かに戸惑っている。

 ――ば、馬鹿な……インリは死んだはずだ。

 するととどめの一撃がきた。いきなり耳元でささやく!
「あなたのお尻の穴が覚えているわよ……」
「な、なにいいいいいいいいいいい?」
 高潮した顔になるランカ。そしていきなり殴りかかった!

 バキィ!――

「な、なにするのよ!――」
 怒るインリ。だが、怒らせたのもインリだ。

「お、おのれ……この狂言者め!――」
 ランカはまだ認めたくないようだ。そう思えるのが、人間の耳。インリはダークエルフ。

 その一点で、否定する!

 胸ぐらを掴んで、インリを脅す!
「きさま! 私を馬鹿にするつもりか!――」
 めずらしく怒っている。軍人のプライドを傷つけられたのだろう。
 男言葉で怒鳴りつけた!

 さすがのインリもちょっとびっくり。ここまで怒るとは思ってもみなかったようだ。

 ――あわわわ……
 遊び半分で言ったつもりが、大変なことに。

「衛兵! 衛兵!」
「はっ!――」
 外にいた部下が呼ばれる。

「軍人侮辱罪だ、監禁室に閉じ込めておけ」
 怒りに震えるランカ。すぐにこの場を去る。というか去りたかった。

「いや! 離せ! こら!――」
 無理やり連れて行かれるインリ。これはある意味仕方ない。
 人間の身体では、到底ダークエルフの兵士には勝てない。


 ――いった……い……どういうこと……
 目の前が真っ白の女軍人。こんな馬鹿な……と思いたいのだ。
 別室の机に座って頭を抱える。

 ――わからない……どうなっているのよ。
 ランカは数分間、呆然としていた。


 それから数時間後。もう一度ランカが来て、一対一で尋問。同じ事を繰り返すインリ。 そして、どうしても信じられないランカ。やりとりは、一時間近く続いた。

 結論など出ない。
 そこで……

「明日、王都に移送することになった」
「え?」
 
 王都?

「王都で、より深く取調べをするつもりだ」
「!――」
 ええ? 

 ――う〜ん……まずいわね。

 これは本格的な取調べだ。今までなりゆきで面白半分だったインリだが、だんだん恐怖心が出てきた。
「お前の言っていることは、狂言だ。だが、それだけでもない」
 あくまで別人視点で見ているランカ。そうでないと気が狂いそうなのだ。

「……そう、信じてくれないのね」
「当たり前だ、どうやってインリの情報等を掴んだかは知らないがな。その辺も取り調べてやる」
 高圧的だ。さすがは、女軍人、怪しい奴には容赦がない。

 もういいわよ、といった顔の少女。面白くなくなってきたらしい。

 というか飽きた。

「悪いが、その重りは外せないからな」
 50キロはある重りに足が繋がれている。これでは人間の女は逃げれないだろう。ランカはサッサと出て行った。あのインリの顔も見たくないはずなのに、数時間も見合っているのだ。それだけでも大変なストレスだ。

 シーンとするインリの部屋。

 ――さあ〜どうしよう。

 目をつぶる。

 ――やってみようかな。

 王都に連れて行かれるとさらにやっかいと思う。あそこで裁判官や検察官などに、生前顔を見られている。王族にあえばもっと嫌だ。
 それに調書だってある。やっぱりこうなると怖い。
 
 ――また、死刑判決なんて受けたらたまらないわ。

 よし……

 覚悟を決めた。少女は、先生に言われた方法を試すつもりだ。


 口をつぐみ、頭の中で、呪文を唱える。さらに目をつぶる……
 瞑想を始めた少女。

 すると、頭が軽くなった。深層奥深くに心が引きずりこまれるようだ。
「う……あっ……」
 ビクンと頭痛がした。そして瞬間……

 ふわっと身体が軽くなる……
 軽くなる……

 なる……ん?

 ――あ……ああっ……

 目の前に自分がいる?
 インリがいる。

 ――せ、先生……

 ――できた!―― できたわよ!――

 喜ぶインリ。といっても目の前の身体はピクリとも動かない。近くにある鏡には……

 青白い火が漂っている……

 そう、インリのこれは魂だ。

 ――ん?
 人魂のような火が揺れている。

 ――これ……わたし?

 ゆらゆらと揺れる人魂。いや、エルフ魂か。

 ところが、そこから……

 ――わわわ!―― な、なによ!

 何かに引きずりこまれるように火が、突進していく。宙を駆け巡るインリの火!

 ――ひいいいいいいいいいいっ!――
 意識が遠のく……しかし、火だけは彗星のように走っていく。

 実験は成功した。
 インリは魂の離脱に成功したのだ。

 こうしてインリは脱出した。身体だけほっぽり出して……


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