晩餐会前日……


 何十人かの騎士がいる。馬車が数台止まっている。どうやらこの場所はガッツの家の前のようだ。
 周りは殺風景なところでもあるこの場所。町からちょっと離れたというところか。
 騎士たちが見送りをしているらしい。


 あれからめんどくさい申請を終えて、とうとう出発の日……



「ごくろうだな、おまえら」
 出てきた出てきた、ガッツだ。いつもと違う軍服を着ている。正装用の騎士の礼服だ。そしてチラッと馬車を見る。馬車には誇らしげにミセルバの家の証であるアウグス家の紋章とその騎士の証の紋章が見せびらかすように装飾されている。

「ふん、俺もえらくなったもんだ」
「ではお気をつけて、騎士団長殿」
 リシュリューだ、お見送りに来たらしい。

「おまえら、騎士帝長殿にくれぐれもそそうのないようになあ〜」
 嫌味たっぷりと若い騎士たちにえらそうに文句を言うガッツ。

「ご心配なく、私がいますので」
「お前に言われるとなぜか安心するな」
 どうやらリシュリューは認められているようだ。だが、まだまだガッツには甘く見えるが。

 すると向こうから……女が一人……

「ああ?」
 ミウだ。なんと突然ミウが来た。
 
 嫌な顔をするガッツ。しかし突き放そうとはしない。もう半分あきらめているのだろう。どうもガッツはこの女性が苦手のようだ。
 ミウの目的はここでなにか渡すものがあるらしい。

「これ……」
 スッとミウがかけよる。あの夜のラルティーナへのご奉仕のミウとはまた違う表情のミウ。
「あ?」
 まさかここでミウが来るとは思っていないガッツ。その上、妙な物を差し出される。

 ん? ペンダントとお菓子のようだ。この地方ではお守りとして有名なペンダントだ。
 お菓子の方はクッキーらしい。さすが女の子……ではもうなかったか。

 
なんとガッツにお菓子……さすがは変わっているミウ。

「あのなあ〜38過ぎの男にペンダントとお菓子かよ」
 ちょっとばかり恥ずかしそうなガッツ。この男にもはにかむ時があるらしい。

「お守りよ、こっちは食べてね」
「ガッツ殿にお守りとは……」 
 リシュリューが思わずにこっと笑う。

「この俺にお守りとはな、お前だけだこんなのくれるのは」
 やれやれという表情だ。だが断る理由はない。

「気をつけてね」
 ちょっと顔を赤くして微笑むミウ。よっぽどこの男に惚れていると見える。
 こんな男のどこがいいのか……

「……ああ」
 ちょっと真面目な顔になる。その時だった。

 突然リリスの顔が浮かぶ。


 …………なんだ?

 …………

 ああん〜? 

 なんでここでリリスが?……

 ちょっと考え込むガッツ。リリスに未練でもあるのだろうか?
 そして……なにか言葉が浮かんだ。



「なあ〜……」
 何か言いたそうな顔の中年騎士。
「なに?」
 ミウが聞き返す。

 


 黙っているガッツ。





「……いや……なんでもない」
「……?」
 不思議そうにガッツを見るミウ。
「じゃあ俺は言ってくる、後は頼んだぞ、ミセルバ様に忠誠あれ!」
 するとリシュリュー以下の騎士たちが一斉に敬礼する。
 ミセルバ様に忠誠あれというのは、こう言う時に忠誠を尽くしている騎士の言う決まり文句のようなものだ。

 本気で忠誠を尽くしているかは知らないが。

「いってらっしゃいませ」
 一斉に敬礼する騎士たち。

 ガッツは馬車に乗り込んだ。それをちょっと不思議な目で見るミウ。

 

 ――変ね……どうしたのかしら


 いつものガッツとさっき違っていたのを微妙に読み取る女。さすがつきあいが長い。


 みなに見送られながらガッツは中央王都へ向かっていった。







 なんだ? さっきのは? ありゃ……なんだ?


 納得できない……なんでリリスの姿が……

 じっと考え込んでいる……騎士団長。心の底のどっかにリリスを心配しているのかもしれない。



 ――自業自得だ……馬鹿が……そうだ。

 目をつぶるガッツ。嫌な思い出が浮かび上がる。
 
 ――いまはやりの自己責任だよ


 自分に言い聞かせる……騎士。


 ――しかし……あれを……されたら……
 
「あ〜あ! ばかばかしい! 知るか、知るか!!」
 今度は叫ぶ!

 そして横にあったウイスキーをびぐびぐと飲み始めた。

 忘れようとしている……何かを……
 ガッツは勢いよくのみ続けた。







「戻りましょうか」
 リシュリューがミウに声をかける。さっきからずっとガッツの馬車が消えていくまで見届けているミウ。


 けなげだ……本当に一途……

 どこがいいのだろうか?



「もうちょっと……ここにいさせてください」
 軽く会釈してミウはまだ一点を見つめている。


 ――ガッツ殿は幸せだな。 このような方に想われて
 そう思いながらリシュリューは去っていく。


 ミウのガッツに対する想いは消えることはない。周りの評判が悪ければ悪いほど、障害があればあるほど恋は燃え上がるのだ。


 そしてそれは女領主ミセルバ様への見方も変えていくことになる……




 
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