いよいよきた……晩餐会当日。

 今日はメイドたちが美しく着飾る日だ。

 各々の貴族のプライドを賭けてメイドたちを着飾る……金をかけ、プライドをかけて……
 


 馬車に乗る用意が出来たらしい。



 うわあ〜……

 …………



 みなどっかのお嬢様のようだ。ミセルバ様のメイドで選ばれたのはリリス、ミク、マイカなど全部で15人ほど。結局15人の出席ということになったらしい。
 若いメイドたちがうらやましそうに見ている。こういう豪華なドレスを着れるのはメイドのような身分にとっては、一生に一度あるかないかだからだ。後は結婚式の時ぐらいだろう。

「かっこいい! リリスさま!」
 リリスの格好を見てきゃあきゃあ言っているメイドたちがいる。

 カフスと呼ばれる男性的な格好でリリスはいくようだ。これは目立つ。
 女性らしく胸が誇張され、キュッと締まったウエストには剣を携えるベルトが巻かれている。
 剣はダミーではない。一様本物らしい。
 美しい貴族の青年のようだ。セミロングにした髪がさらにそう見える。
 メイドさんたちが騒ぐのも無理はない。

「うふふ、ありがと」
 あこがれの目で見ているメイドたち。それをくだらないそうに見ている騎士たち。

「なんで、この俺達が……」
 ぽつっとまた例の一人の騎士がつぶやく。

「メイドたちを警護するんじゃない、服をお守りするんだ」
 リシュリューがこのまえと同じようなことを言う。

「ものわかりがよろしいですな、騎士長殿は」
 納得できん……というのが若い騎士にはある。騎士長のリシュリューまで駆り出されていることにも不満を持っている騎士は多い。
 とにかくメイドたちの警護をするというのが気に入らないようだ。
 身分的に自分の下の者を警護するというのは理解できない。しかも本来ならミセルバ様やその親族だけに許される特別の馬車に乗っていくという始末。
 
 するとミセルバ様がやってきた。ミセルバのドレスはいつもの紫色のドレス。
 いつもながら美しい18歳。美しい胸の谷間。
 といっても今日はメイドたちが主役だが。
 横にはあのレイカがいる。
 

 レイカは……なんとなく暗い……

「みなさん、今日は楽しんできてね」
 綺麗な衣装で包まれている女性達を見ながら女領主が言った。
 するとミクのほっぺがちょっと赤くなる。かわいいドレスだ……ミクのは、どっかのお嬢様というよりもどっかの貴族の子供のようだ。
 無理につけているような赤い色の口紅はちょっと似合わないが……


「ミセルバ様、アウグスの家を汚さぬように勤めてまいります」
 深く一礼してリリスがにこっと微笑んだ。
「ええ、楽しんできて頂戴」
 微笑むミセルバ。チラチラとだがミセルバもみなの衣装をチェックしている。
 あくまでもアウグス家の権威を損なうことがないかを見ているようだ。

 

 みな、綺麗ね……特に……リリス……お姉さま


 
 心の中でぼそっとつぶやくお姉さまという言葉……
 少しずつ、少しずつ、地下牢以外でもリリスの影響力は来ている。
 
 さらにミセルバはリリスの衣装をお気に入りのようだ。男性的なリリスの衣装……
 やっぱりめずらしい。力強さがある。引っ張るものがある。
 腰の剣も似合っている。といっても戦うためではないが。

「楽しんで……きて」
 ちょっと暗いレイカの声。なぜかリリスに目があわせられない。

 一斉に馬車に乗り込む15人のお嬢様たち。
 やれやれといった顔で騎士たちが馬に乗って警護に当たる。馬車も本来ならすべてアウグス家の親族が乗ることが許されるクラスのものばかり。馬車からもう権威とプライド、そしてお金が渦巻くという晩餐会……

 ドレスで着飾った女たちはミツアーウェル主催の晩餐会に向かっていった……


 
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