あれから数日後……


 今日はいい天気だ。

 お城の中の庭にたくさんの花が咲いている。
 あたり一面に咲いている田園風景……それを見つめながら……
 休憩中になにやらため息をつきながら見ているメイドがいる。


「はあ……」
  

 ミクだ……なにやら元気がない。

「ふう……」
 深刻ほどではないが、なんともいえない顔。やはり数日前のアレが聞いている。お尻にとって初めての衝撃……お尻はびっくりだった。あの後はもう嫌なだけ、ちっとも面白くも楽しくもなかったのだ。マイカとエンヤは新しい絆を深めたようだが、ミクはアイラやモーラと深めるどころか嫌な気持ちになってしまった。

「…………」
 元気のないミク。いつものハキハキさがない。あの経験は辛かったのだろう。
 でも……覚悟はしていた。
 だいたい一回はみんなしていたからだ。


 しかしいざとなると……



 それにリリスお姉様にされたのならともかく……あのような形は最悪だった。

 

身体に別に異常はない。
 しかし心は……暗い。

 リリスお姉様に対しての他人の思いも気になりはじめた。
 だんだん関係がうまく行かなくなっている。なんとなくミクにもわかる。

「今日は少しお話できると思ったのだけど……」
 あれから三日……なかなか機会にめぐまれないミク。加えてミセルバさまともあまり話していない。ミセルバはリリスとのあの淫らな行為の次の日から、他の貴族の接待に追われていた。急な客がきたのだ。なんでも他国の貴族の方だということだった。
 当然、サブリーダーのリリスも忙しくなる。


 まあ今日からは、少し落ち着くだろう。お客さんはやっと帰ってしまったから。


 しかし……肝心のリリスは……


 ここのところ毎回呼び出され……




 圧力を受けていた。




「なぜ言わぬ」
 老人達がリリスに問い詰める。
「…………」
「リリス、答えるのだ」
 黙っているリリス。

「私はそなたのために言っている」
「どうして私が辞退することがわたしのためになると言われるのですか?」
 反論するリリス。立ったまま反論する。もはやこれは尋問に近い。それをはらはらと見ている一人のメイド長。

「わからん女だな君は」
 しびれを切らしたバルザック騎士帝長。
 なかなかうんと言わないリリスに対していらだちも募っている。二人の老人が椅子に座ってリリスを尋問している。ここはジボアールの執務室だ。

「わかりません、一体誰の命令でそのようなことを言っているのでしょう?」
 リリスがさらに突っ込んで聞く。さらにはらはらするレイカ。

 ――ちょっと……リリス。

 まさかここまでリリスが気が強いとは思っていなかったレイカ。

「私とジボアール殿がそう言っているのだ」
「そのようなこと、聞き入れるわけにはまいりませぬ」
 きっぱりと断るリリス。もう後ろに誰がいるかはよくわかってはいるはずだ。だが屈しない。

「リリス君、嘘でもいいから言う気にならないのかね? 
建前でいいのだよ、君には努力が必要なのだ」
 今度はジボアールが諭す。
「君のためだ、君のためなのだ。都合が悪くなれば後で私達が面倒をみてあげてもいい」
「面倒? それはどういうことでしょう?」
 平然と聞き返すリリス。その表情は屈しないの一言、一言に尽きる。

「もうよい……リリス君……下がりたまえ」
「……まだ返事を聞いておりませんわ、騎士帝長殿」
 今度は返事を要求するリリス。半分怒りの目で見ている。

「下がりたまえ……リリス」
 バルザックが少し睨む。ここまで言ってもわからぬかという態度だ。
 カチャカチャと脇に身につけているサーベルを鳴らす。まるで脅している。

 


 黙っているリリス。黙ったまま頭を下げて部屋を出て行った……



「あ、あの、いま、説得しますから……もう少しお待ちを」
「レイカ君、もうよい、君は悪くない……君はよく努力した。昨日からあの女が言っているとおり最後には御領主ががお決めになられること。しかし……気を使ってほしかった……まことに……
まことに残念だ」
 
 もう結論は出た、これ以上何回やっても同じだ。もうどうでもいいという表情だ。

「……し、失礼します」
 リリスを追って急いで部屋を出て行くメイド長。



「バカな女だ、分かっていないならいざ知らず……これでますますあの方に理由をつけてしまった」
つぶやくバルザック。
「仕方ありませんな、正直に報告しましょう」
 バルザックを見てジボアールが言う。

「頭は賢いと思っていたのだが……少々気が強すぎる。どのみちあの考えでは長生きできまいよ」
 呆れているようだ、騎士帝長は。
「それにしても、レイカはリリスを疎ましく思っていたのではないのか? どういうことであろうか?」
 騎士帝長がぽつりとつぶやいた。
「どういうこととは?」
 聞き返すジボアール。
「あの様子ならほっておけばどのみちリリスはもう終わりだ、レイカもよくそれは知っているはずだ」
「…………」
 少し間を取ってジボアールが答える。

「女の……感……でしょうなあ〜」
 ジボアールがぼそっとつぶやいた。何をされるかを……わかっているのだろう。


「ふん、どうなろうが自業自得じゃ。少し親身になってやればこうだ。だいたいわざわざなんでこの私まで担ぎ出されるのかが不愉快で仕方ない」
 さらに続けて言う騎士帝長。
「後は、よろしく議長殿、にしても……ついにここまでやられるとは……正直少し驚きでもあるが」
「気になりますか?」
 退席しようとするバルザックにジボアールが聞く。
「今回のメイドの件ぐらいならどうでもいいのかもしれんがな……
最近の御当主は……私も正直……少し……な」
 腰に騎士の証である帯刀している剣をクイクイと馴らしながら、少々気になることを漏らす。

 そう言いながらバルザックは部屋を出て行った。


 ――……もう少し……もう少しだけ待つというのも……ある、しかし。
 
 ジボアールは自分の部屋でじっと考えていた。
 正直いってこのまま報告したくはない。リリスは好きでも嫌いでもない。しかしこのままではリリスがどういう目に合うかも承知している。だからといってリリスがやることはやったとも言いたくもないのだ。
 どのみちこういうタイプの女性はいずれ生きていけなくなるのを知っているからだ。


 別に他人を殺せとは言っていない、無理な要求とも思えない。ただわざとらしく言えばいいのだ。
 言えばそれで済む……
 それをしない女……。

 助けてやらねばという義理もない……だが、やはり本音は嫌な気持ちになる。
 なんやかんやとよく毎日顔をあわせている女がある日突然……なら嫌になるものだ。いつもメイドには小言を言っている老人。だが、このままではリリスがどうなるかはわかっている以上、やりきれない気持ちにもなっていた。


 
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