パーティの後で


 いつもとは見慣れないメイドが走り回っている。人の数も多い。メイドの服装も違う。

 当たり前である。

 ここはグーベル男爵の城。ミセルバの隣の地方を治めている御領主のメイド達なのだ。ミセルバの城のメイドとは違い、スカートが短いような気がする。なるほど……おそらくはここの城の主人の趣味であろう。おまけにスリットも深い。これは場合によってはきわどく太ももが見えそうだ。

「はあ〜なに?あの格好は」
「確かに、ちょっと大胆すぎますなあ〜ハハハ。しかしまあ……良いではないですか」
 ほろ酔いの男が答える。心の中でキッと睨みつけるミセルバ。
 
 全く……女をそういう目でしか見てないのね。

 この酔っ払いの名はグレイ伯爵。これでもある地方を治めている貴族なのだ。王族とも縁のある家柄であり、ミセルバの家とも昔から親交がある。
「う〜む、この角度から見るとこれはこれは」
顔をぐっと地面につけ下から近くのメイドのスカートを覗き見している。

  あきれた……なんて方なのでしょう。酔っているとはいえ。

 とそこに似たもの同士のような男が現れた。
「おおっ、なんじゃあそれは?なにかいいモノでも見えるのか?」
「グーベルそなた考えたのう〜メイドの服装を。ワハッ」
「ハハハッ!じゃあ!」
 この男も酔っている。そしてこいつがこのパーティの主催者なのだ。ミセルバは横にいるメイドの一人と顔を見合わせた。

 男というのは……みなこういうモノ。いや、もう。ホントに……。

 見合わせたメイドも口元を緩ませる。
「かなり酔っておられるご様子ですね」
「そなたも気を付けよ、覗かれるかもしれん」
「私達のスカートは長いですので」
 するとグレイ伯爵は起き上がり、
「なぜ!長い!短くせ、イイィ!」
 と言い放つ。目を丸くしたのはミセルバとリリス、ミク、他のメイド達だ。

 はあ〜もう二度ときたくないわ。

 ミセルバは心の中で破廉恥な男達を見ながらつぶやいていた。



 しかしパーティは豪華だった。さすがは領土持ちの貴族だけの事はある。招待されたのは50人ほど、貴族、財界の実力者、他の国の身分の高い者、いろいろだ。みな豪華な衣装に身をつつみ、酔狂にふける。だがミセルバにとっては社交辞令程度の気持ちで来たのだ。

 それより、もし……ミクと。というのが本音だろう。今日のミセルバはまた一段と美しい。胸の谷間を魅力的に見せ、背中はお尻の上辺りまでさらけだしている、紫色の衣装である。もちろん注目の的だ。男達の視線も熱かった。



「疲れたわ」
 本音をポツリと漏らすミセルバ。
「ひどい酔会でしたね」
「酔会?そうかもしれぬ」
 酔会とは平民が酔って暴れるような集まりの事を指す。リリスはミセルバの服を脱がしながら世間話のような話をしていた。ここで汗ばむ身体を、拭くためだ。この城にも風呂はある。だがミセルバは入りたくない。ここの浴場も、貴族専用はもちろんある。だが主は男、嫌な男もいる。見られたくないのだ。
 なら女性専用のに入れば良いのでは?と思うかもしれないが、そんなものはここには存在しない。だから招かれた貴族の女性達は大抵自分の個室で身体をメイドにあるいは男に、少年に……というわけだ。

 ミセルバは、大理石の浴槽に腰を掛けた。リリスはいつものように布で身体を拭き始める。
「他の者はどうした?」
 すると、
「ミセルバ様、お願いがあります」
 リリスが頭を下げる。
「ん?」
「ミクが……ミセルバ様の身体を拭きたいと」
ミセルバはドキッとする。
「ミ、ミクが?」
「はい」



「そなた達に聞く。あの事は他言無用を守っておるか?」
 気になっていた事をここでミセルバは聞いた。
「はい、もちろんでございます。どこの世界でもよくある事と存じます。そう気になさる事はないと思われます」
「ふむ、そうか。うれしく思う」
 急に威厳を持つ言い方である。

「なら、わかった。ミクを呼んではくれぬか?」
「はい、ただいま」
 スススッとリリスは会釈して部屋を出た。もうばれておること……そういえば今日の者達はこの前の出来事を知っておる者だけ。

 リリス……気をつかってくれたのね。

ふう〜なんかいけない事をしているような気持ち。と思っているとミクが来た。
「ミクです、まいりました」
どうやら右手に籠のようなモノを持っている。その籠の中にはミセルバを狂わすモノが用意されているのだ。
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