「以上です」
 リシュリューが騎士帝長に報告をしている。
「わかった。では、御領主から何か言われたらこちらもそれ相応に対応しようかの」
 ふむ、そうかという感じで聞いている騎士帝長。するとリシュリューが続けた。
「このままでいいのでしょうか?」
「なに?」
 リシュリューはまだ何か言いたいようだ。その様子を横にいるもう一人の騎士も聞いている。
「このままとは? どういうことだ?」
 バルザックが尋ねる。
「帝長、御領主が何もされない場合、私達はこれでよいのでしょうか?」
「君はもう十分過ぎるほど動いている、後はこの私と御領主にまかせたまえ」
 もういい、君はだまってろといわんばかりの態度だ。

 ――どうやら……この方は……

 ピンときた騎士長。バルザック騎士帝長はおそらくこうなることさえ知っていると予測した。
 
 当たりである。


「こういうことを最終的にどうなさるのかは御領主ご自身がお決めになられること。私達は言われたとおりにしておけばよい、わかるな?」
 諭されるリシュリュー。しかし心は黙っておれない。だが、ここはおとなしくするしかない。それが自分の身のためでもあるということだ。

 が……


 ――このままでは終わらせない!


「わかりました、では、失礼します」
 騎士長リシュリューは深々と頭を下げて退室した。


「まじめすぎる」
「はっ?」
「あの男、たしかに優秀だが」
 横にいる男はだまって聞いている。さらに騎士帝長が続ける。
「ラブロックに詰め寄ったそうだな、リシュリューは」
「はい、そう聞いております」
「びっくりしておったわ、あそこまで本気で言うとはと……」
 やれやれといった感じのバルザック。あの男のまじめさに嫌気がさしているらしい。メイド二人がどうなろうとあまり関係ないようだ。
「そうですか……」
 なんとなく返事をする騎士。どうやらこの男、騎士長よりも上の身分のようだ。
「少し気をつけた方がいい。切れすぎるというのも困るのでな、
なんかガッツはお気に入りのようだが。」
「あっ……はい」
 答える騎士。
「さて……後始末も大変じゃわい。よりによって……メイドの晩餐会の時にされるとは。あとは……御領主がなんと言ってくるか……」
 ふう〜っと椅子にもたれかかる騎士帝長。
「いろいろと迷われているようですが」
「そうか……これも良い経験であろうよ」 
 椅子にもたれかかっている男は眠くなってきたようだ。うとうとし始めた。

 騎士帝長にとって今回の出来事は……結局これぐらいのことなのである。まさか今回の件で、ミセルバが身内を陵辱されたという感覚まで持っているとは、夢にも思ってはいないバルザックであった。



 噂とは早いもの。しゃべってはいけないこととは、あっという間に広まるものだ。
 もう城下町ではこの話題で持ちきりになっていた。

 ただちょっと変な噂に変化しているが。

 「御馬車が連れ去られた?」というのだ。

 御馬車? 馬車ごとたしかに連れて行かれたのは本当だが。普通はその中に乗っていた人を言うものではないか?

「聞いた? ミセルバ様の馬車が連れて行かれたって?」
「馬車が連れて行かれたの? どういうこと」
「なんか馬車だけ拉致されたそうよ」

 どうやら妙な方向にいっているようだ。

 しかしこういう噂はなかなか終わらない。幸い、ミクとリリスどころか、中にメイドがいたことは知られてはないようだが。


 
「ねえねえ〜馬車がさらわれたってほんと?」
 アイラがモーラに尋ねる。
「え、え〜とね、それは黙ってないといけないのよ」
「黙ってないといけないって……じゃあほんとなのね」
「あっ! しまった!」

 間抜けなモーラ。これでもう事実とアイラは知ってしまった。ここはいつもの遊戯宿。今日は夜ではなくお昼間。モーラは休日で遊びに来ているようだ。周りにはアイラの仲間の子が数人いる。みな裏の世界の友達でもあり、アイラのレズのお相手でもある。
「うふふ、駄目ねえ〜モーラーは……」
「きゃっ!」
 後ろからいきなり胸を揉まれる。あの忌まわしき日から一週間が過ぎていた。リリスとミクは休養という形でお休みをしている。表向きはお暇をもらっているということになっているらしい。そしてこれは口止めされているのだ。

「リリスお姉さま……最近どうしてるのかな?」
「え?」
 ドキッとするモーラ。リリスとミクのことも厳重に口止めされているからだ。リリスとミクがどうなったかということはメイドには一切教えられていない。それだけ気を使っているということである。

「ん?」
 モーラの表情を見る……

 ――はは〜んこれは何かあるわね。

 なんとなくわかるのだろう、アイラは聞き出そうとする。
「答えなさい、モーラちゃん!」
 グィッとモーラの胸を引き寄せる、後ろから抱きしめて羽交い絞めにしている。
「な〜に、かくしてるの? リリスお姉さまが関係あるのかしら?」
「え、ええ?」
 駄目だ、この手のタイプは嘘が下手で、表情に出るらしい。逆におしゃべりでべらべらとしゃべるのは得意なのだが。
「こら、ちゃんというのよ」
 暇つぶしに聞きたいというのがアイラの本音。最近リリスお姉さまとうまくいっていない。というかそういう風に思い込んでいる節もある。そうなるとますます逆に気になるものだ。

「……あ、あははっ。なんでもないの、ないのよ」
「うふふ、そう、何かあるのね? 馬車と関係あるの?」
「え! えええっ!!――」
 さらにびっくりするモーラ。するどい突っ込みにびびりまくり。
「ほらほら、いいなさいな」
 しっかりと抱きとめてモーラから探りを入れようとする。
「だ、駄目なのよ、駄目なんだって!」
「ふ〜む……じゃあねえ〜」
 と言ってアイラがモーラを攻め始めた……

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