――これは……心配じゃ。

 一人の老人がてくてくと歩いている……ミセルバ様とさきほどお話をされたシュタイン爺さんだ。

 あれから結局結論は出ずに、今日は終わった。しかし爺さんは……

 ――このままで済むとは思えぬ。ミセルバ様のあの様子では……

 ミセルバがこのまま黙っているとは到底思えない爺さん。しかし、即、行動するとも思えない。だが、この爺に何が出来ると言われても……というのが正直な気持ちだ。
 側近として長くいたシュタイン。先代のお父上からのお側仕えである。代々爺さんは執事として使えてきた。それを最近ロットに完全に譲ったのだ。

 ――かといって気軽に他人に相談できることでも……
 ゆっくりと城下町を歩いていく爺さん。はっきりいって気が重い。
 これからのことが非常に心配なのだ。すると向こうからある一人の女性が向かってくる。

 ――ん? あ……

 眉がピクッと動くおじいさん。美しき未亡人のようなタイプの女性がゆっくりとこちらに歩いてくる。

 気づいたようだ。だが本音は見つかってほしくなかったらしい。軽くじいさんが頭を下げる。どうやら爺さんよりは身分が高そうだ。未亡人はちょっとだけ会釈をして去っていった……
 それを見つめるシュタイン。

 ――なぜ、こんなところに……まさか……

 嫌なことを考えるシュタイン。思いたくないと言うのが本音。
 
「本当に今日は嫌なことばかりじゃな」
 今見たことはなかったことにしようと決め付けるじいさん。

 未亡人の名前は……

 ミシェスタシア。

 ロットの母親である……



 ロットの母親、ミシェスタシア。30はもちろん過ぎてはいるだろう。大人の色気が漂う女性。ベールをかぶり薄暗く顔が見えるようにしている。これは喪に服している時に女性が使うベールだ。しかしロットの父親は死んではいないのだが。

 サッと見渡して入っていたところ……

 質屋のようなところ……

 どうやら……金貸しだ。ということは……



  借金?


「ふ〜む」
 美しい陶器の一つをじっくりと見ているお店の店員。目利きをしているようである。ここは質屋から金貸しまでやっているところ。現代のサラ金のようなところである。

「今回はこれで……」
 サッと提示額を書いて、渡す。まあまあの金額が書いてある。
「お願いするわ」
 ベールをかぶったまま、コクッとうなずくミシェスタシア。気品漂う色気は本当に悩ましい。さらにその色気は非常に上品なのだ。なんといえばいいか……えもいわれぬ匂いが出ているような気がする。
 この身体から生まれてきたというならロットが美少年というのもよくわかる。

「しかし……あなた様もたいへんでございますな」
「…………」
 何も言わないロットの母親。にしても胸の大きさも谷間も実によい。
 母乳というイメージがぴったりの胸だ。
 これなら一日中吸い続けても飽きは来ないほどのモノのように見える。
「ではこれで今回の利息を差し引いて元金はこれだけになります」
 サッと提示する。これを書類にサインしたら、
 これだけ払ってこれだけ残っていますという証明になる。

「ところで、ミシェスタシア様、考えてもらえましたでしょうか?」
「…………」
 何も言わないミシェスタシア。とても返事が出来ないようなことらしい。
「あなた様がうんと言えば……」
「その先は言わないで……お願い」
「……しかし……これではいつまでたっても元金は減りませんよ」
 諭すように言う店主。
「…………」
 しかしミシェスタシアは返事をしない。店主はそれを見て言うのをやめた。

「では、次の期限までこれだけはお願いします」
 と言って、金額を書いた書類を渡す。期限までにこのお金を持ってこいということ。
「ええ……」
 そういうとサッと身支度を整え出て行く……色気と気品をばらまくように。

 

 ――う〜む……いつ見てもすばらしい〜

 店主がうなるのも無理はないだろう。誰が見ても一度はお手合わせしたい身体だ。
 いや、それだけではない、

 あの気品、

 あの独特の表情、

 あの雰囲気、そしてあの未亡人と言うような匂いをかもし出す表情……



 どれをとっても非の打ち所のない美しさなのである。

 さらに母親という言葉がこの男を熱くさせる。そして人妻という言葉がこの男の心をくすぐるのだ。
 ロットの家の家計はどうやら火の車のようであった。
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