赤いベールに赤いドレス服、さらに後ろには大きなリボン……

 どこのコスプレおたくかと思うタイプ。しかしこの方はまぎれもなくミセルバ様の妹君……

 アーチェお嬢様。

「あれぐらいのレベルならいくらでもおるぞ、ん?」
 にっこり笑うアーチェ様。16歳になられたばかりのお嬢様である。はっきりいって毎晩遊びまくっている。2〜3日帰ってこないのもザラだ。ミセルバにとって悩みの種の一つ。右手に扇子を持っているのが特徴。さらに白い扇子はよく目立つ。

 派手好き、遊び好き、男には目がない、クラシック音楽は眠くなる。まったくもってミセルバ様とは対照的な方だ。

 さらに性格も悪い、口も悪いときているアーチェ様。
 しかし決して悪人ではない。
 逆にメイドの面倒見とかもよく、庶民に対しても愛想がよい方なのだ。メイドたちともよくお馬鹿な話をして戯れている。この点もミセルバ様とは対照的である。

 が、なんとなく……威圧感がある。子供なのに……

「そうなんですか?」
 メイドの一人が言う。
「いつも男に囲まれておるとの……慣れるのものじゃ」
 にっこり含み笑いのアーチェ。しかし憎めない顔だ。こういうタイプに言われてもムッとこない。
 今日は頭にもリボンがついている。ツインテールのような髪型で決めているらしい。
 ちょこまかしてかわいい感じのお方でもあるのだ。

「そのようなことは自慢することではありません」
 侍女があきれているようだ。
「よいではないか……本当のことじゃ」
 
 
 本当のことだったら自慢してもいいのか?



「ところで、ミクはどうした? 最近見ないようじゃが」
「あっ……」
「ん?」
 メイドのモーラがピクッと反応する。それをすかさずチェックするアーチェ。
 サッとメイドは目をそらした、しかしもう手遅れであった。

「ミクに用があっての、リボンを今度選んでもらおうと思っていたのじゃ、そなた何か知っておるようじゃの?」
 モーラに詰め寄るアーチェさま。
「い、いえ……私は何も知りません」
 あきらかに何か知っている態度だ。もちろんアーチェはそれを見逃さない。
「ミクちゃん、休養中なのよね〜」
 他のメイドの一人がなんとなく言葉を発した。
「ほう〜ミクは休養中とな?」
 そう言うとサッとまたもやモーラを見る。

「そなた、何か知っておるようじゃな?」
 にこにこしながらもう一度モーラを見る。

 これが結構怖い……こういうときのアーチェ様には気をつけないといけないのだ。

「わ、私はな……なにも知りません、はい、知らないんです」
 焦っているモーラ。これでは何か知っているというようなものだ。
「何を知らないのじゃ?」
 引き下がらないアーチェさま。じわじわと迫る。
「え?」
「何を知らないのかと聞いておる」
 にっこり微笑むかわいいお口。しかし腹の中では……

 扇子がキラリと光る。

 ミクとリリスのことは知られてはいけない!と心に思う、モーラ。しかし、思えば思うほど


 ……それが逆に……



「あっ……ですからミクとリリスのことは何も知りません」
「誰もリリスのことは聞いてはおらぬぞ?」
「え? あ……あの……」
 さらにうろたえるモーラ。逆に冷静ににっこりと笑って続けるお嬢様。
「ミクとリリスのことは何も知らないのじゃな? ということはそれ以外の話はは知っておるのであろう」
「え……?」
 ギョッとするモーラ。面白い言い回しだ。
「わらわはそういう話が大好きじゃ……これ!」

 と言って扇子を片手に侍女たちに申し付けた。



「……ただちに連行せよ」



 サッとモーラの両腕が掴まれる。



「しばらくこの娘を借りるぞ、ちょうどよい暇つぶしになりそうじゃ」
 にこにこしながら侍女たちを使ってモーラを引っ張っていくアーチェ様。どうやら噂の御馬車のことを知っている人間を見つけたと踏んだらしい。

「他のものに聞かれたら今日一日、この娘はわらわが貸し切ると言っておけ。よいな」
 扇子をゆっくりと揺らしながら、うふっというような表情でメイドたちに申し付ける。

 唖然のメイドたち……面白いことや、聞き出したいことがあるとアーチェ様はいつもこうである。
 メイドは勤務中、ミセルバ様や、ご家族の方のお世話をするのが勤めだ。当然呼びつけられればそちらが優先。

 ということは……これも立派な勤め? ……である……


 ――あ〜ん! なんでえ〜 私ってこうなのよ〜
 ズルズルと引っ張られていくモーラちゃん。

「アーチェ様ってやっぱり怖いわ……」
「こわ〜い」
 ぷるぷるとメイドの一人が面白がって震えている。
 よくメイドは暇つぶしに連れて行かれることが多いのだ。庶民の噂話が大好きなアーチェ様。
 アイラにもあの後、攻められ白状してしまったモーラ。今日も時間の問題のようであった。
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