「お願いします!」
 再度頭を下げるシミリアン。困ったロット少年。

「……どうしてもと言うなら……ミセルバ様にご相談するしかないのですが」
「取り次いでくれませんか?」
「はあ〜」
 いきなり取り次いでくれと、言われてもと思うロット。するとシミリアンが切り出す。
ミツアーウェル様もこの件に関してぜひ事後のことを聞くようにと言われているのです」
ミツアーウェル様がですか?」
 ミクとリリスが拉致される前はメイドの晩餐会にいた。主催者はもちろんミツアーウェル

 ちょっと考えるロット。ミツアーウェルの名前が出たなら別だ。
 しかしこれはシミリアンの機転であった。つまり嘘である。いくらなんでもわざわざ300人近くきたメイドの一人を気遣うわけがない。

「わかりました、そういうことなら別です、伺って見ましょう、ついてきてください」
「あ、は……はい」
 一歩道が開けてうれしい金髪少年。ミツアーウェルの名前の効果は抜群だった。こういう頭はよく働くらしい。スタスタと歩く二人。するとシミリアンが切り出す。

「あの〜あなた様は?」
「ロットと言います」
「!」

 ――ロット? あの男官の方? じゃあ〜なおさら話がはやい!

 ロットのことは貴族の方々でも有名な話だ。これほど変わった男官はいないからだ。

「そうでしたか……よろしくお願いします」
 深々と頭を下げる金髪少年。今はミクのことでいっぱいだった。



「今は誰も入れるなとの仰せです」
 二人の騎士がミセルバの部屋の警護にあたっている。おそらくシュタインと二人で話をしているのだろう。めずらしいことだ。普通は騎士ではなく兵士がする警護を騎士がしている。
 ミセルバの命令だった。それだけ強い意志があるということを見せている。

 ――シュタインさん……まだいるのだろうか? にしてもわざわざ騎士が……
 こうなるともう入れない、待つしかない。

「仕方ありません……別の場所で待ちましょうか?」
「……はい」
 すぐ会えないとわかり、がっくりするシミリアン。正直待っている気なぞない。が、ここはどうしようもないだろう。二人は城内の近くの軽食や喫茶店のようなところへ向かう。
 

 それをメイドの一人が見ていたのだ。 

 美しい少年が二人……そういうのが好きなメイドなら見逃すはずはない!
 
「ちょっと!」
「な〜に?」
 休憩室で休憩中の別のメイドたちの元に走るモーラ。

 

 モーラはこういうことが好きなのだ。

「うちに金髪の少年の使用人っていたかしら?」
「金髪? まっきんきんなの? あの太った人のこと?」
「違うわよ、スラ〜っとして容姿は一緒にいるロット様風なの、それでいて、かわいいのよ」
「なんですって? かわいい金髪少年?」

 目が輝くもう一人のメイド。暇そうにしていたメイドたちも興味津々のようだ。

「いくわよ!」
 一人が立ち上がって見に行こうとする。
「ちょ、ちょっと!」
「どっち? どこにいるのよ! その美形は! はやく教えなさいよ!」
 休憩中は暇だ。となれば興味がさらにわいてくる。モーラとメイドたちはいそいそと美少年を見に行くことにした。



「馬車がさらわれた時、ミクさんとリリスさんが乗っていた可能性が高いというんですね」
「ええ……そこのところを僕も知りたいんですよ。」
 シミリアンが知りたいのはまずそこだ。ロットももちろん知りたい。
「ミセルバ様なら多分ご存知だと思います」
「……ですよね」
 コーヒーなど飲む気になれないシミリアン。はやくミセルバ様とお話したくてたまらない。

 ――そうか……それで……
 ロットにもおぼろげながら意味がわかってきたようだ。シミリアンの表情は深刻である。療養所に入っているなら……

 なにかを……

 された……

 (いやだ! そんなこと考えたくない!)
 目をつぶって悲しむシミリアン。金髪の髪がちょっとだけなびく。ロットも嫌な予感がしてきたようだ。 こういうことなら他には漏らさないように配慮するミセルバ様の姿勢が理解できる。

「ね? どう?」
「う〜ん、なんか暗そう……」
 深刻な表情なら当たり前である。
「なに話してるのかしら? 真剣みたいよ」
「恋敵じゃないの?」
「う〜ん7点!」
 突然メイドの一人が点数をつけはじめた。すると、

「私は6.5ってところかな」
「8点入れるわよ!」
 高得点だ。容姿の点数つけているのだろう。相手の気も知らずに……


その時だった……


「2点……」
 いやみったらしい低い声で言う。
「え? ちょっとそれはないんじゃ……」
 後ろからの声に振り向くメイド……

「あっ! ……」
 後ろにファンシーグッズに身を染めたようなお嬢様がにっこりと笑っている。横にいる侍女はあきれているようだが。

 そのお嬢様の名は……
 
 


 アーチェ
……ミセルバ様の妹君……お久しぶりの登場である。
 
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