「え? ミク?」 「ええ……」 どうやらミクに会いに来たようだ。シミリアンはあの日以来ミクのことが気になっていた。リリスという名前もそうだが…… それとなくどうなったかを聞きに来たのだろうか? 「ミクさんなら今は療養所ですよ」 「ええ?」 療養所と聞いてびっくりするシミリアン。 「なぜです!」 「あ……あの」 急に大声を出されてびっくりするロット。シミリアンの目は真剣そのものだ。廊下の周りを歩いている者が思わず振り向く。 「……あなた……ミクさんの関係者?」 「あ……申し遅れました。私、シミリアンと申します」 軽く頭を下げる。金髪の頭がスッと下に動いた。 「どういうご関係ですか?」 名前だけではそう簡単に言うわけにはいかないと思ったロット。 ミクのことは結構みなが気を使っているからだ。 「私、ミツアーウェル様の元で働いているものです」 「ミツアーウェル?」 ピクッとロットの眉が動く。ミツアーウェルといえばツス家の大物の一人だ。 「はい、そこでミクさんにお会いしまして……」 「そう……ですか……」 ――あのミツアーウェル様の……そういえば…… シミリアンという名を聞いたことがあると思ったロット。側近の一人だと思い出す。 「ミクさんにお会いしたいと言うのですね?」 「なぜ? 療養所に?」 「……それは私もわからないのですよ」 ロットも困っている。不安な顔になるシミリアン。 「……まさか……ミクさん……」 顔が青くなるシミリアン。嫌な予感がしたからだ。 「え? 何か知っているのですか?」 今度はロットが聞いてくる。シミリアンは黙っている。深刻な顔だ。 ――リリスさんて人ではなかったのか? ターゲットは? ――いやだ……いくらなんでも……いやだ!!――――そんなことあってたまるかよ! 「あ、あの……」 「会わせてください! お願いします!」 「え……いや……ですから……ね」 「お願いします! このままでは申し訳なくて……僕の気が晴れません!」 何のことかまったくわからないロット。二人はお互いにびっくりしていた…… …… ………… なんと…… おどろくシュタイン、そりゃ驚くのも無理はない。 「そういうことなのですか」 「ええ……そうなの、そうなのよ」 悲しそうなミセルバ。言うのも辛そうだ。ミクとリリスがさらわれた……とだけはっきり言った。 「それで調査をしたいと」 「ええ……でも当たり障りないようには……どうすればと……思って」 「当たり障りのないようにとは?…………」 そして黙るシュタイン、当たり障りないように……なんて到底無理である。 「御領主は、どうなされたい?」 「……私は……誰がこんなことをしたか突き止めたいの」 「……そうですか」 目をつぶるシュタイン。非常に辛い選択だ。 「ことを調べれば……おそらく、もめるでしょうな」 「…………」 それはわかってはいる。 「御領主が領令を出せば、当然、ツス家当主といえども従わなくてはなりません」 「従うかしら?」 ミセルバは疑問だ。 「屋敷の中はいやいやでも調べさせてくれるでしょう……ただ……もう……」 証拠なんてあるわけがない。 「おそらく何も出てきますまい、後は……」 「確執が残るだけよね……今度は私の立場が困ることになるわ」 「…………」 よくわかっているミセルバ。わかってはいるのだが…… 18歳という年齢が行き過ぎた調査をして墓穴をほった……領主としての権威も…… そうなれば将来この地位を保つためにさらにリリパットに頭が上がらなくなる、というか言いづらくなる。それに本気で対立してもアウグス家の親族さえ味方についてくれるかどうか…… ツス家とアウグス家はいまや一心同体である。 ミセルバ一人が暴走したとしたら、逆に自分が危ない。 「馬車の方はどうなりました?」 「……無事よ、まったく壊された後もなし」 リリパットは馬車に興味はない。その中の女の一人に興味があったのだ。 「……そうですか」 シュタインじいさんも厳しい顔を変えようとはしない。 「ミクとリリスは……今どうされているのですか?」 「……療養所にいるわ」 ミセルバは悲しそうだ。シュタインはそのミセルバの表情を見て、さらわれて何をされたかを読み取った。 ――なるほど…… シュタインも痛いほど気持ちがよくわかる。しかしこういうことはよくあることなのだ。 メイドなぞ、性欲の対象にしか見ていない貴族の男もいる。 「しばらく、様子を見られた方がよろしいかと思います」 落ち着いた声でシュタインは言った。 しかし、ミセルバには同意できない。 出来ないが……それが現実的だ。それが一番もめない方法でもある。 |
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