リリスが泣きながら話をした一週間後……

 一人の金髪少年が呼び止められていた。じっと黙って立っている少年がいる。
 5人ほどの側近に囲まれている……
 呼びつけたのはもちろん、あの覗きの好きなツス家第三の男、ミツアーウェル。椅子に座って少年を見ている第三の男。すると横にいた側近の一人が口を開いた。
「お前、数日ほど前、お城に足を運んだそうだな」
「……はい」
 ごまかさないシミリアン。すでに覚悟は出来ているようだった。

「誰に会いにいったのだ!」
 側近の一人が声を荒げる。
「御領主、ミセルバ公です」
 はっきりと言うシミリアン。まったくごまかす気もないようだ。驚く側近たち。
「何を話したのか……」
 ずばり聞いてきた。じっとシミリアンを見つめるミツアーウェル。シミリアンはあの日、いきなり用があると言ってお城に行ったのだった。

 もういてもたってもいられなかったのだろう。

「この前の晩餐会での出来事です」
「お前……まさか……あの事を……」
「はい!……相談しました」
 きっぱりと言うシミリアン。まったく動じてはいない。しかし、どこからばれたのであろうか?

「馬鹿者!!――――」
 怒る側近たち。もう何を言ったかもわかっているようだった。実は、今回のことは当然のごとく、しっかりと口止めされていた。もちろん、ほとんどの側近の者は誰にも言う気もない。
 
 しかし、ただ一人の少年は別であった。

 ミツアーウェルもなんとなく、シミリアンには気をつけるように他の者達に言っていたのだ。なぜなら明らかに様子がおかしかったから。この年齢の少年にとって、あの出来事は我慢できるのは辛いだろう。特にミクに思い入れがある以上は……

 予感は当たってしまった。

「何を考えておるのかあ!!――――――」
 怒る側近たち。怒るのはもっともだ。当然、晩餐会での出来事もしゃべったと思っている。口止めされているのをしゃべった……それだけではない、こともあろうに


 ミセルバ様に……

「このまま何事もないようにされるのは、納得行きません!」
 きっぱりと言う金髪少年。しかし……

 ガキッイイイイイイィィ!!――――

 倒れるシミリアン! 思いっきり側近の一人に殴られたのだ!

「きさま! どういうつもりだ! それが仕えている方に対する行動か!――――――」
 怒りに震える殴った男。そりゃあ、怒るのは当然だ。
「もうよい……シミリアンと二人で話がある、後は下がれ」
 ミツアーウェルはやれやれといった様子だ。側近たちは部屋を出て行く……殴られ、ほほが真っ赤になった少年はゆっくりと立ちあがった。

「シミリアン……そなたは失格じゃ」
 さびしそうに言うミツアーウェル。将来を期待していただけにこれは辛い。
「……気持ちはなんとなくわかる。しかし……これは私に対する裏切りでもある」
 おおきなおなかを出しながら言う。
 口止めしていたことをホイホイと側近が他の者にしゃべられたらそりゃあ困るのは当然だ。

 さらに相手が……相手だけに……

「…………」
 黙っているシミリアン。少しうつむき加減だ。複雑なのだろう。
「本日より、そなたの側近としての役職を解く……罷免する」
「はい……」
 文句一つ言わずに答えるシミリアン。覚悟はしていたようだ。
「だが、シミリアンよ、まだ私に仕える心は持っておるか?」
「……あ……あの?」
 妙に思う少年。
「どうじゃ?」
 にこりと笑うダルマさん。
「そ、それは……どういうことでしょうか?」
 解雇した少年に用があるというのだろうか?

「仕える気があるなら……別の仕事をしてもらう」
「え?」
 仕事? 驚く金髪少年。免職されたのに別の仕事はどういうことか?

「そ、それは……?」
「そなた、ミセルバ公の信頼は得たのか?」
 にっこり微笑むダルマさん。
「……あ、あの……」
 思わぬ展開に目を丸くする。

「信頼を得てはおらぬか?」
 もう一度聞いてきたミツアーウェル。
「……いえ、今度、何かある時も、できたら話を聞かせてほしいと……」
 あれからミセルバ様から協力してほしいとお願いされていたのだ。
 シミリアンは承諾していた。
「ほう……そうか……ならば、そのまま協力してみよ」
「ミツアーウェルさま……」
 再び驚く少年シミリアン。するとミツアーウェルはゆっくりと立ち上がり、窓の外を見る。屋敷の上から見る豪邸の庭はじつに見ごたえがある。

「今度の一件、このミツアーウェルも、不愉快に感じている。大事なメイドの晩餐会を不快にさせた男には思い知らせてやりたいと思っての」
「ミツアーウェルさま……では!」
 金髪少年の心が明るくなる。
「しかし、それはリリパット個人に対する復讐ならだ、当主リリパットに対する行為なら協力はしない」
「…………」
 むずかしいことを言われた。ちょっと考え込むシミリアン。

「わからぬか?」
 窓を見ている顔をくるりと振り向ける。中年男のにこやかな表情が見えるミツアーウェル。
「……つまり……リリパット卿、個人だけに復讐するならOKと……」
「そうじゃ、それが当主という立場をも叩き潰すという行動に出るなら、
わしはそれを叩き潰さねばならぬ」
 ちょっとだけ不適な笑みを出す。

 ダルマが笑うと怖い。

「協力してくださるのですか?」
「そなたがわしの存在を見せず、悟られぬようにに動けるというならの」
 ゆっくりとまた椅子に座る。ミツアーウェルが影で動いてくれたらこれほどうれしいものはない。
「……ありがとうございます」
 少しにこやかな表情になる金髪少年。うれしいのだろう。

「喜ぶのははやいぞ、ミセルバ公にも誰にもわしが後ろにいるということを悟られてはならぬ。わしはそなたが困った事態になっても決して助けもせぬ、わかるな?」
「……はい」
 気が引き締まるシミリアン。
「それでもやりたいと言うならやってみよ、わしも出来ることなら力を貸そう」
「ありがとうございます!」
 思いっきり頭を下げる。うれしくて涙が出そうな金髪少年。

 この日、シミリアンは不敬を働いたということで、表向きは側近を罷免された。そして裏で動くようになったのだった。

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