ラルティーナがミウの淫儀におぼれているころ、こちらは真剣な話が行われていた。

「このまま……うやむやにするつもりはないわ」
「……でも……それは……」
 リリスがちょっと思いつめている。
「だってそうでしょう、こんなこと許されていいはずがないわ」
 リリスにとって正直うれしい言葉だ。しかし現実は悲しいのだが。

「ミセルバ様、ご無理はなさらないようにされた方が……」
「だめよ、うやむやになんて出来ないわ……」
 ミセルバにとってリリスとミクはただのメイドではない。大事なマゾにしてくれるためのメイドだ。身体を開発してもらわないと困る。それに同じ女として絶対に許せないからだ。

 正直うれしいリリス。ここまで想ってくれるだけで、胸がいっぱいになる。貴族の中にはメイドなぞ奴隷同然と見ている人も多いのだ。

「思い出すのは辛いかもしれないけど……出来るなら全部話してほしいの」
「……は……い」
 ポロポロと涙を流すリリス。こんなにやさしくされたのは久しぶりだった。今まで自分一人で生き抜いてきたリリス。過去にはいろいろあった女……甘えなど許されないことばかりだった。
 そのリリスにとって少しだけ気を緩めれる人がここにいる……

 リリスは泣きながら話を始めた。


「む、そこに来たか……」
 リシュリューがチェスの駒をクルクルと動かしながら盤上を眺めている。ここに来てから一時間以上になる。ナースからの知らせでもうしばらく時間がかかるため、くつろぐがよいとのこと。
「妙なことを聞くが……よいかな?」
「……なんでございましょう」
 騎士が返事をした。
「いずれ黒騎士とわれらは立場が変わるなどという嫌な噂を耳にすることがあるのだが」
 駒を乗せようとした騎士の表情が変わった。
「……ギルドの連中ですか」
「うん……」
 静かに返事をする騎士長。
「あの連中はお金を稼げるところ、力を稼げるところに擦り寄るだけの者達です、無視しておけばよいと思いますが」
「そうはいかぬ、結局世は金だ、ギルドの力は今やどこの領内も侮れん。特に裏関係のギルドはな」
「…………」
 そう言われると言い返せない騎士。

「そういう噂があっても何も対抗できないというのがまた不思議なものだ」
 リシュリューが駒を置いた。
「……ええ……」
 なんとなく答える騎士。騎士もわかってはいる。ここは本当に変なところなのだ。でも、そういうことを決めるのは上の人間で、時の流れで決まると思っている。たかが一介の騎士にどうこう出来るものじゃない。
 リシュリューはチェスの駒をじっと眺めながら何か考えている。それを見ているもう一人の騎士。

「あの……騎士長……」
「……なんだ?」
 騎士がゆっくりと言葉を続けようとする……

「あまり、妙な事はなさらない方がよいと思います」
「……心配してくれているのか? うれしいね」
 少し笑顔が出る。
「騎士帝長や騎士団長殿たちはおそらく騎士長のお味方にはならないと……」
「ああ……わかってるよ。しかし……もし、ミセルバ様が動くことになったらどうする?」
 チェスの駒を起きながらリシュリューが騎士に聞く。
「……騎士長は、どうされるのですか?」
「もちろん、忠誠を尽くしている御領主の協力をするさ」
「…………」
 ちょっと下を向いて黙っているもう一人の騎士。それを見ながらリシュリューは続けた。

「それが雇われている騎士の務めだろう」
 澄ました顔して本当のことを言う。そのとおりだ、そのとおりなのだが……

 もう一人の騎士は何も言わずに黙っていた。

 
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