あれから三十分は経っただろう…… じっと考えているリリス。 ――ミク……ミクは……大丈夫よね。 ただ心配なのはそれだけだ。自分が犯されている間はミクは何もされていないことはわかってはいる。しかし不安は尽きない。あれからどうなったかは自分もわからないからだ。 ――もし……なにかあれば……わたしのせいだわ。 思いつめるリリス。なぜ、今回こういうことになったのかはもうだいたい理解はできている。 しかし…… 「くやしい……」 目をつぶって怒りを抑え込む。あの時の情景は思い出したくもないが、冷静になっていくにつれて、分析をするように頭が回転し始めた。 ――あの……場所、かなりの屋敷の大きさだった…そしてあの部屋…… 相手が誰だか考える。でも、仮面の顔しか浮かんではこない。見たくもない仮面の顔。 ただはっきりと言えることは…… ――あの口ひげが最高に憎い! はっきりと覚えているのは口ひげだけだ。それ以外は何も……今は思いつかない。 それよりも今は、ただただミクのことだけが…… 「リリスお姉さま!!」 突然、強引に部屋の扉が開く! ハッとして振り向くリリス。そこには涙ぐんだお嬢様がいた。 「ミク……」 目をただただ一点見つめるリリス。その目をただただ見るミク。 「リ……リリスお姉さま……うわああああああっ!!――――」 また泣き出した! ものすごい声で! 「ミク、ミク!!――」 ミセルバも入ってきた。あれからミクはまだ動揺している。目の焦点が合っていないまま、リリスにされるがままのように抱きつく! 「うわああああっ!!――――」 「ミク!!」 しっかりとミクを抱きしめるリリス。だが、リリスもこれからどうしていいかわからない。ただただ、ミクを抱きしめるだけだ。それしか今は出来ない。 ――ミク…… しっかりと抱きとめるリリス。しっかりと胸に抱かれるミク。 それをじっと見ているミセルバ様。 三人の胸の内は今、大変である。 「ようやく落ち着かれたようですわ」 「そう……ありがとう」 にっこりミルミに微笑む女領主。ミルミもようやく緊張感が緩む。 あれから二時間近くが経った…… 大変だった……ミクとリリスとミセルバ様。ミクはあれから泣くは喚くわ、リリスはただただ涙を流すだけ、ミセルバ様はそのたびにオロオロ状態。それがしばらく続いた後、ミルミが精神安定剤を飲ませて徐々に落ち着きを取り戻した。リリスもミクも今は眠りについている。 リリスとミクはもうしばらくここ居るかもしれない。本当は城に連れて行きたいのだが、ミクの心の状態があるので判断に困っているミセルバ様。しかしずっとここに居座るわけにもいかない。おばあさんとおじいさんに迷惑をかけることにもなる。 「今日は、ここにまだいた方がいいのかしら?」 医者でもあるミルミに聞く。 「ええ、できれば。特にミクさんは動かさない方がよいと思います」 「そう……でもオードリーおばあさんに迷惑かけるわね」 「……そう……ですけど、ちょっとぐらいなら」 ミルミはちょっとびっくりしている。ここのおばあさんに気遣う心があるだけでも。身分の高い人にはそういう気遣いがない人が多いのだ。 「結局……ミクは……だけど……リリスは……」 ぼそっと悲しそうな目でミルミに訴えるミセルバ様。 「ええ……多分」 リリスはおそらく何かされた、ミクは大丈夫という結論が出ているようだ。ミルミの言葉を聞いてさらに悲しむミセルバ様。どうしてこんなことに……といった感じだろう。 「ありがとう、あなたがいて本当に助かったわ」 「い、いえ、……光栄です」 ――チャンス! いい印象だわ! 研究費が頭から離れない。こんなおいしいチャンスはめったにない。リリスとミクを診ている間もそのことが離れなかったミルミ。ミセルバ様からお礼を言われてますます期待が膨らむ。 「あなたにはいずれそれ相応のお礼をするつもりよ」 「あ、ありがとうございます」 目が輝く……ランランと。 「オードリーおばあさんはどこかしら?」 「ちょっと使える薬草を取りに行ってくるって言ってましたよ」 「あらっ……そう」 うれしそうなミセルバ。ミクとリリスのために……うれしいのだ。人のやさしさを感じる瞬間だった。 「あ、あの〜ミセルバ様〜」 「ん?」 「こ、今後ともよろしくお願いします」 ぺこっと頭を下げるミルミ。営業活動が始まったようだ。 「……ええ、今後ともよろしくね」 にっこり微笑むミセルバ様。ミルミは一生懸命ミクとリリスを診てくれたのだ。それに答えたのがこの笑顔だった。 ――やったわ! 一歩前進よ! 研究費のために一歩前進である。心でにこっとつぶやくミルミ。 「ミルミ、あなた……今日はまだここにいてもらってもいいの?」 ミセルバ様が聞いてきた。 「え? あ、は……はい、それはもちろん!」 「じゃあ、今日だけでもお願いしたいの、数日のうちに、 使者を出してミクとリリスを……のつもりだから」 「そうですか、わかりました」 「では……お願いね」 スッと立ち上がり、ちょっと考え込むミセルバ様。もう帰るつもりでいる。 オードリーおばあさんにも本当は一言お礼を言いたいのだろう。しかしもう戻ろうと思っている女領主。いつまでも開けてはいられないのだ。メイドがどうこうされたぐらいで、あまりにも世話を焼きすぎると変に勘ぐられる恐れがあると考えたのだろう。 ふう〜っと息を一息つく。これからのことも考えているのだろうか? ミセルバ様はゆっくりと部屋を出て行く。 ――うふふ、第一段階はうまくいったわ。 こちらはゆっくりと次の段階を考えている。 ――にしても……やっぱり……こういうのって嫌よね〜 同じ女としてやはりレイプや強制は許せない。こういうのを診断するのは辛いものだ。ミルミはそれをしみじみと考えていた。 |
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