それは変態女医の激しいオナニーから4日後のことである。

 苛立ちを隠せない女領主。その女領主を説得しているのはあのアーチェ様だ。どうやらあの件の事を言っている。

「それでこの私に気を使えというのですか?」
 いつも以上に不機嫌なミセルバ様。しかしその不機嫌な顔も絵になるお方だ。
「姉上、ミルマルグス殿も心配されております。いえ、ミルマルグスだけではありません。他の親族の方々もなんとなく気になっておるのですよ」
「ツス家とはちゃんとおつきあいはしています。必要以上にへりくだるのは納得できません」
 めずらしく引かない女領主。それにちょっと驚くアーチェ様。姉上がここまで頑固になるとは思ってもみなかったようだ。

 だが、今のミセルバの心情なら理解できる。リリパットの事は、もう許せないという頭が固まっているから。その事はアーチェ様もまったく知らない。

「あの男が何か言ってきたのですか?」
 今度は逆に質問だ。
「え?」
 さらにびっくりするアーチェ様。

 ――姉上はよほど虫の居所が悪いらしい……

 まずい時に忠告に来たと思うアーチェ。こつこつと座っている机を叩くミセルバ様。黙っているアーチェにさらにいらだつ。
「リリパット卿が何か言ってきたのかと聞いているんです」
「あ……い、いえ……ですから」
 戸惑う16歳のお嬢様。これはまいったという感じだ。

「私は礼を欠いているとは思いません。むしろ礼を欠いているのはあの男の方です」
「……はあ……」
 信じられない態度だ。いつもならこういう言葉は吐かない。ミセルバ様の様子は明らかに不信感を持っている。

 ――これは危ない……今日は引き下がるとしよう……

 自分に撤退命令を出すアーチェ様。

「わ、わらわはミルマルグス殿の側にいる者から聞いただけですので……そ、それでは今日はこの辺で……」
 さっと切り上げ体制に入る。ちょっと別な心配事が頭をよぎったからだ。礼をしてサッと部屋から出ようとした時、その予感はあたった。

「待ちなさい、アーチェ」
 ビクッとするアーチェ様。

 ――き、きた……

「気をつかいなさいと言いましたね、それはもっとあなたのように、派手にパーテイとかに出席してほしいということですか?」
「い、いえ……わらわほどは……必要ないとは思われますが」
 サッと低姿勢で迎え撃つ。

「あなたは遊びすぎです」
 一番聞きたくない言葉だ。

「は、はあ〜しかし、他の家との交流は必要かと存じますが」
「交流を深めるなとは言っていません、ですが、もう少し節制なさい。あなたは遊びすぎです」
 今日ははっきりいってやばい。サッと頭を下げるアーチェ様。

 
 外出禁止にされてはたまらない。


「はい、肝に銘じます……」
 コクッと頭を下げる。頭の後ろの赤いリボンの元気もない。
「よろしい……もういいわ、下がって頂戴」
 冷たいミセルバ様。リリパットの名前が出るのがよほどムカついたらしい。

「はい……」
 アーチェはいそいそと部屋を出た。すると侍女以外に人影がある。どうやらメイドたちのようだ。アーチェ様が部屋から出てきたので慌てている。

 ――やれやれ……

 今日はやけに声が大きいミセルバ様。メイドたちがびっくりして噂したのだろう。様子を伺ってきたらしい。
 おそらく噂は30分持たずに広がる可能性がある。
 なぜならあのモーラもいたからだ。 

 間違いない。

「ひどい目にあった」
「今日はご機嫌がお悪いようでしたから……」
 侍女が気遣う。
「あのような姉上は久しぶりじゃ……」
 以前も一度、一週間帰ってこなくてこっぴどく言われたことがある。

 だから最近は2〜3日に一回はお城に戻っているのだが……

「日ごろの行いが問題かと……」
 すかさずちくり攻撃。
「それはあまり関係ないようじゃ」
 サッと否定してかわす。

「やはりリリパット卿と何かあったのかのう〜」
 少し気になるミセルバ様の態度。心配し始める。
「……その辺はなんとも」
「ん〜困った困った」
 顔をかわいくしかめるアーチェ様。

 ――しばらく様子を見るとしようか。

 アーチェ様は間を置くことにしたようだ。



 そのアーチェ様の気遣いをよそに怒りに震えるミセルバ様。
 あれからリリスにガッツのこと、ロットの情報を聞いて、もう黙っていられないというのが本音の女領主。大事なマゾにしてもらうはずのお姉さまとミクを、あんな目に合わせたのは誰かもほぼわかっている。

 ――駄目だわ……やっぱり許せない。

 おまけに今日はアーチェからの嫌な助言だ。これでは怒るのも無理はない。女として許せない衝動がミセルバ様を襲っている。

 ミセルバ様はいくつかの不正を知った。前々から思っていたこともあった。理解できるのもあるにはある。しかし密輸の件だけは許すつもりはないようだ。とはいっても貴族なら誰でもやっていることなのだが。

 それに……これなら……使える。

 そう考えているミセルバ様。しかしいざ実行に移すことが出来ない。

 大きな胸を支えるように、手を組んで考えている……自分の組織の配下で味方になる者を考える。 支配下の検察にはまったく知り合いはいない。
 知ればまっさきにツス家やアウグス家に知られるだろう。

 警察にあたる役人関係も同じ。
 あとは……騎士……

 団長クラスにも信用できそうなのはいない。ああ、なんて無情な現実。

 これでも本当に領主? と言いたくなる。しかし、現実は、ばれればすべて終わりなのだ。

 だが、騎士の味方は絶対に必要だ。騎士はミセルバの好き勝手に動かせる大事な調査部隊にもなるからだ。いざとなったら検察や役人が出張ってきても抑えきれるからだ。

 しかし、騎士帝長はまず無理。あの男はバリバリの昔の思想で固まっている男。

 と、すれば……


 ――リシュリューなら……

 最近配属した騎士長リシュリュー。今回の事件にも関与している男だ。リシュリューは前の領主に仕えている時にも、不正を暴き、領主から信頼を得ていた男である。その後、ガッツの推薦を受けてミセルバ様の騎士長の一人になったのだ。

 話すべきか迷う……信頼できないならすべてがばれるから。
 
 ――ロットも言っていたわね。あの人は信頼できるって……

 キュッと体が震えた。一つ間違えばすべて駄目になる。特に仕えてまもない男を信頼するというのは非常に勇気がいることだ。
 それにガッツと仲がいいというのも気になる。もっともお互い信頼しあっているわけではないが。

 こういう時は……


 シュタインじいさんだ。

 早速ミセルバ様はもう一度シュタインに相談することにした。

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