「急いでミク」
「は、はい」
 超特急で服を着る二人。
未だにこの場所は地下牢だ。そう、こちらの二人とも寝過ごしたのだった。理由は激しい一夜……その一言に尽きる。夜ミセルバが寝室にいるかどうかは部屋の外の衛兵もまず確認することはない。だが朝になればメイドが部屋にあいさつと朝食をどこで取るのか等を聞いてくる。もうとっくにその時間は過ぎている。
 ミクも大変だ。本来なら、明け方までにメイド長の部屋から出て行くのだが、もうメイド長の部屋にはレイカが椅子にすわってふんぞり返っている時間。こうなったらミセルバと共に、ミセルバの寝室へ向かうしかない。

 早く戻らなければ――
 御領主がいないとなればへたをすれば城内はパニックだ。だがもし寝室から出てこの地下牢でミクとのことが……リリスや他の数人のメイドなら知られてもいいのだが、その他には知られたくないのが本音。
だが冷静に考えれば地下牢でナニをしていたとは言わなければ良いだけだ。
 しかし不思議がられたり意味深に思われるのは当然だろう。朝っぱらからメイドと地下牢に行って何をしていたのかと。それに他のメイドに地下牢の存在自体知られたくないと言うのも本音だ。口止めはもちろんしてあるが、知らない人間に知ればそれだけ知っている者は増えてしまう。

 う〜ん〜困ったわね――

 しかし悩んでも仕方ない。ミクをここに置いて行く方法もあるが、こんな場所にひとりぼっちにするわけには行かない。ミセルバは決心した。

「行きましょう、ミク」
「あ、はい」
 二人は地下牢の寝室側に向かう階段を歩いていった。





 おそるおそる隠し扉を開ける……

 と……そこには――


 あれ?――


 リリス。リリスが……がいた。

「あ、お、おはようリリス」
 にっこり微笑むリリス。驚いたのはミセルバだ。リリスが朝、ここにいる事はめったにない。
 サブリーダーぐらいになれば用がなければ一日一回会うかどうか。ましてこんな朝から……。

「おはようございますリリスさん」
 はきはきとした声で返事をするミク。いろいろ考えていたミセルバとは対照的。リリスさんでよかったというところなのだろう。結果的にはそうかもしれないが。いかにもミクらしい性格がよく現れている。
 一方のミセルバはほっとしたと同時に辺りを見回した。メイドはリリスだけのようだ。どうやら……リリスが、機転を利かせたらしい。実を言うともしやと思い、まっさきにこの部屋に来たのである。案の定メイドの一人がミセルバ様がいないと周囲に尋ねていたところにかち合った。そこでうまくいいくるめてリリスだけここにいたというわけだ。
 深々と一礼するリリス。
「おはようございます、朝食はいかがなさいますか?」
「え、ええ……今日はもうここに持ってきてくれる?」
「かしこまりました」

 リリスが下がるとほっと一息つく御領主。ミクと目が合った。あどけない顔でにこにこしているミク。

 ミクをみると……ほっとする。

 ――ふふふ。ミクらしい。

 にしても、リリス……ミセルバは改めてリリスの立ち回りのうまさを再認識していた。

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