しばらくしてシスアは目覚めた。ふと見るとソファにリリパットがワインを飲みながらくつろいでいる。くるくるとワイングラスを動かすリリパット。そのしぐさは大貴族にふさわしい趣だ。シスアをみながら見守るようにやさしく微笑む。 「お目覚めかね?」 「はい」 「美しい……君は本当にいい女だよ」 権力者の目がシスアの美しい肉体を見つめている。いやらしさのない目だ。芸術として女を見ている証拠でもある。だが、どことなく冷たい……。 「まあ、お世辞ですか?」 「私は常に事実をいう男だ。世辞は嫌うところだ」 「うれしく思います」 にこっと微笑むシスア。だがこの言葉は当然のごとく他の女にも言っている。シスアも承知済みだろう。 「ところでシスア……君はずっと御領主ミセルバ侯のメイドをやるつもりなのか?」 「え?」 「君さえ良ければ私が面倒をみてやってもいい」 「お心遣いうれしく思いますわ……でも」 うれしい申し出だ。 リリパットは今は独身。 前の奥方はもう数年前に亡くなっている。しかし今のリリパットには妾は10人以上もいる。その中には貴族の女もいるのだ。とうてい身分により奥方の夢はかなうことはない。正式な妻を取るときは身分が一番問われる。また、シスア自身も妾で一生を終わる気もない。 いずれはそういう道を行くのも、この時代の女の生き方の一つには間違いないが。 「でも……なにかね?」 「私、やりとげたいことが……ございます」 「ほう」 リリパットの瞳がベッドで横になっている女さらにを見つめる。 「ミセルバ様の下でお仕えして、どこまで自分を磨けるか……ためしてみたいのです」 「なるほど」 「申し出は本当にうれしく思うのですが」 「気に入った」 「え?」 裸のリリパットがシスアに近づく。 「自分の進むべき道を貫こうとするその姿、さすが私がほれ込んだだけのことはある」 シスアが顔をちょっと赤らめて下を向く。 「で、どうしたいのだ?メイド長にでもなりたいのか?」 「別にそういうわけではないのですが・・それに・・」 「それに……なにかね?」 シスアが少し緊張した趣になる。 「なれるかどうかは、その……ミセルバ様次第ですし」 意味ありげに答えるシスア。 「ほう〜そなたよりも信頼のある女がいるのか?」 「はい」 心のなかでかすかに……微笑むシスア。明らかな誘導だ…… 「名前は?」 リリパットがわざとらしく名前を聞く。 「リリスといいます」 「邪魔なのか?」 「…………」 肝心なところはだんまりらしい。シスアは何も言おうとはしない。したたかな女だ。 「ふふふ」 不適に笑い、シスアの横に座るリリパット。 「私は君の役に立ちたいのだ」 シスアの顔に軽く手を当てるリリパット。そしてやさしいキス。 「君の役に立ち動けることを私は幸せに思わなければならない」 酔っているのだろうか?自分に言い聞かせるように話す。50を過ぎた男の瞳が、美しい女の瞳を見つめている。 「リリパット様」 うっとりとした女の目……抱かれたい抱かれたいと訴えているようだ。50には見えないたくましい腕が再びシスアを情熱で包み込む。 「シスア、君の美しさのためなら……私は力の限り手を尽くそう……誓おう、その美しさに」 そう一言だけ言ってリリパットはシスアの身体を再びむさぼり始めたのだった。 |
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