やっとついたようね。城下町から二時間近く馬車を走らせている。もう外の景色を見るのも飽きたほどだ。男っぽい顔立ちの女性……久しぶりの登場。

 そう、女医ライザ――

 今日はお休みの日。だがある貴族の女性を診てほしいと言うことでこの城下町の外れにやってきた。
相手の女性の名はラルティーナ・ツス。大貴族の一族の一人。

 ライザにとっては願ってもないチャンスだ。御領主だけではなく他の貴族の方ともお近づきになることは名誉なことである。ミセルバの専属医という影響は大きい。貴族たちに女医はめずらしいという噂が広まるだけでもライザにとっては益になる。
 さ〜て最初が肝心。うまくいけば次も診てほしいと言われる可能性はある。空いた時間でもいいから等と言われればもう万々歳だ。名医となるにはどうしても貴族の方の力が必要。ミセルバがいるじゃないかと言われるかもしれないが、一貴族だけでは名医とは言われない。たとえ御領主の一族でもだ。他の何人かの貴族のお抱えになればますます知名度は上がる。
 そしてゆくゆくは……中央に……というのがライザの夢でもあるのだ。あの馬鹿にした男たちに見返す
 それがライザの真の目的。そのためにも気に入られなければ……貴族の人間もたくさんの医者を抱えているのがほとんどだ。普通いろいろな医者に診てもらうとだいたい相手の医者は自分の診察が気に入らないのか?と不快感を示すもの。が、この世界では別。貴族にとってたくさんのお抱え医者を持つことは名誉、財力の証でもある。医者一人一人は報酬が高い。たくさん抱えていてもびくともしない財力。これを見せ付けるためでもあるのだ。逆に医者たちにとっても持ちつ持たれつで都合がいい。
 ロットの家にはまね出来ない。財力のない貴族にはとうてい無理なことだ。


 ――ふう〜でも、ロット殿……。

 どうして来てくれないのかしら。あれからロットは一度もライザの診療に来ない。まあもう来ることはないだろう。なんせ、あの少年のペニスは他の女性に夢中なのだから。

「着きましたでごぜいます」
 声の低い小太りの男が言う。馬車を引いている男だ。ライザはゆっくりと馬車から見上げる。大きな屋敷が目の前。

 ――ふ〜んさすがはツス一族の娘の屋敷だけのことはあるわね――

 娘一人にこんな広大な屋敷。ゆっくり門が開かれる。屋敷の中に入っていくライザ。ここは御領主ミセルバの一族の次に影響力を持つと言われる。ツス家の女性がいる。そう……ここは。
 あのリリパットの一族。リリパット・ツス。

 ――ツス家――

 そのツス家の女性の一人、ラルティーナが所有している屋敷なのである。




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