一方、こちらは例の地下牢。そこには……御領主ミセルバさまと。
 メイドがいる……

 ミク――でもミクだけではない。ミクだけでは……

 小悪魔が。小悪魔が一匹紛れ込んでいる……いや、一人。その悪魔はやさしい笑顔を浮かべながらミセルバを見ている。この場所はミクとミセルバの二人だけの場所だった。ミクの独占欲もあって、周りの者は知っていても誰も介入できないはずだった場所。
 だが……その禁断の場所に。悪魔が一匹……いやいや、一人。
「ミセルバ様、うれしいですわ、本当に」
 うっとりとした表情でリリスがミセルバを見る。これから悦楽の時間を御領主様と一緒に迎えることになるリリス。ミセルバも平常心を装うような顔で答えた。が、心の中はもう……背徳に……満ちているのだろうか?何をするのか……いや、されるのか。ミセルバにはもうすべて……わかっているのだろうか?
 ただただメイドのリリスをじっと見つめるミセルバ。その目は一地方の大領主がメイドを見つめる目ではない。まるで自分をかわいがってくれるご主人様のような目で見ている。

 ――無言の間。
 ゆっくりとリリスが近づいて行く。その側にはミクもいる。ミクはうれしそうだ。だが、あれだけあった独占欲はどうなったのだろうか?リリスに……うまく取り込まれたのだろうか?
 あれからミセルバに会う約束をさせてからミクはリリスに……何を話したのだろうか?リリスはなんと言ったのだろうか?
 ひとつだけ言えることは、ミクにとってリリスお姉さまを排除することなど出来ないと言うことだ。ましてよからぬ噂が立てば焦るのも当然だった。ミクにとって比べられない二人……お互いの地位も立場もぜんぜん違う二人だが、ミクにとってはどっちも大事な人なのだ。
 その二人が犬猿の仲になることなど考えられない。ましてミセルバ様がいよいよ本気になれば……メイドのリリスなぞ。

 ならば……と……そう考えたのかもしれない。お互いに立って見つめあうミセルバとリリス。その横でミクがじっと……じっと。見つめている……ミクはどう今を感じているのか?これで良かったのだろうか?

 大事な大事な二人――
 比べられない二人――

 これからも……ずっと……大事な二人。背徳の笑顔を浮かべてミセルバがリリスにそっと……寄り添った。リリスがスッと……ミセルバを抱きかかえる。ギュッと抱きしめるリリス。男性的なその態度。

 ――ああっ、ああ……だ、抱いて。

 感情が沸きあがるミセルバ。じっとそれを見るミク。二人はまた、見つめあう。ミクに笑顔が現れた。

 素直な笑顔。嫉妬心のかけらもない笑顔。

 リリスがゆっくりとキスを迫る。ミセルバは目をつむった。ミクにうっすらと涙が見える。

 ――これでよかった――よかったのよ、ミク。

 自分に言い聞かせるミク。もう迷いはない。ミクも近寄る。ミセルバがドレスを脱ぎ始めた。三人はお互いをしっかりと確認しあう。これからの楽しい時間……

 背徳感が……ミセルバに満ち溢れている。

 これからリリスはミセルバのすべてを知る。そして心を射止めるのだろう。そのことが、その絆こそがリリスの……これからの人生の生命線になるのだった。






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