儀式が始まった。ミセルバがリリスに……リリスに……支配される儀式。それを御領主は望んでいる。
 だが、征服されるという感覚はミセルバにはない。むしろ新しい喜びと背徳に期待がいっぱいだ。ゆっくりと二人が顔を見つめあう。おでこをぴたりとつけあって……
 その行為をミクは感激して見ている。

 ――信じられないわ、この場所で……ミセルバさまと……ふふふ……。

 おでこをつけあったままリリスがちょっと微笑んだ。それにミセルバがうっとりとした目で答える。はやく抱いて頂戴とでも言っているかのようだ。リリスはミセルバの頬を両手でそっと触る。自分より背が低いミセルバ……年ももちろんリリスが上だ。だが身分は天と地の差がある。でも、よく見るとミセルバはかわいい……リリスから見て。
 特別嫌いでも好きでもなかった。でも自分を大事にしてくれたミセルバさま。メイドになる時も身分を保証する人間がいなくても雇ってくれたミセルバさま。そのおかげで今は……私を重用してくれるミセルバさま。

 その方と……うふふ。


 次にリリスはつけあっていたおでこを離し、ミセルバの頭を撫で始めた。まるでよしよしと言っているかのように。お姉さんにやさしくなだめられているかのようなミセルバ。驚くミセルバ……こういうことをされるのは始めてだった。
 領主の座に就いてからはミセルバの頭を撫でる人間などいなかったからだ。もはや父も母もいないミセルバにとって頭を気安く撫でれる人間などいない。地方のトップの権力者の頭など仲の良いミクでも軽々しくは撫でれない。快楽を与える事は出来ても。

 ――ああっ、なんか、いいっ、いいわ……

 ますますうっとりするミセルバ。毎日毎日書類に目を通し、時には議会で議論を聞き、側務官の進言に耳を傾ける日々。愛人でもないのに、ロットはなぜか男官。メイドの次長を選ぶのにこれだけ大変……気苦労だらけだ。でもリリスになら。

 甘えられる――
 スッとリリスの胸に顔をうずめはじめる御領主。それをやさしくリリスは抱きとめる。リリスのこの行動には何か意味があるのだろうか?

 ああ……ああっ……おね……え……

 ――お姉さま――

「お姉さま」
ポツッとミセルバがつぶやく・・
 ミクの見ている前で発したミセルバの言葉。ミクがじっと二人の行動を見ている。

「お姉さま……リリスお姉さま」
 ミセルバが甘えるように言う。お姉さま……こういう発言をミセルバがすることはまずない。

 両手を神に祈るように見ているミク。口元が緩む。

 うれしい……うれしい……

 お互いに仲良くなってくれる・・これだけでミクはもう満足。裏も表もないミク。素直な気持ちのみ。

 ――ここなら、この胸の中なら。落ち着く、落ち着くの……ミクとはまた違う……。

 ――また違った……気持ちよさ。

 リリスはまだ行為に入ろうとはしない。ギュッとミセルバを抱きしめ、耳元に唇を近づける。

「抱いていいですか?」

「…………」
 ミセルバがリリスの顔を見る。

「抱いて……リリス」
「はい」

 リリスがミセルバに愛の口付けを始めた。いよいよリリスのミセルバへの熱い熱い愛撫が始まる。


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