「気持ちよかった、お姉さま?」 「ええ、とっても良かったですわ」 「うふふ」 幸せそうなミセルバ。お姉さんを見ているかのようだ。そう、リリスはお姉さまなのだ。 「ねえ〜お姉さま」 ミセルバがリリスの胸の中にうずくまる。子供が甘えているかのように……それをそっとリリスが受け入れる。 ――うんうん、コレでよかった。 ミクは満足そうだ。幸せそうな二人を見ると込み上げてくるものがミクにはある。両方とも大事な大事な人。絶対に裏切れない人。 「抱いて、お姉さま」 ミセルバがまた求めてきた。あれだけされたミセルバだが、リリスを攻めているうちに欲望が募って来たらしい。それににっこりとリリスは答える。 「してさしあげますわ、ミセルバ様」 「いやいや、ミセルバって呼んで」 「え?」 どうやら何か特別な世界に入ったらしい。御領主さまにとって今のリリスは特別なお姉さんなのだろう。 「で、でも……」 ちょっと躊躇するリリス。チャンスなはずなのだが。 「リリスお姉さま、いいじゃないですか。ミセルバ様がああ言ってるんだし」 「……いいのですか?ミセルバ様」 「ミセルバ様じゃないわ、ここにいる時はミセルバって呼んで」 同意を求めるミセルバ。リリスがそっとミセルバの肩を抱く。 「わかりましたわミセルバ様」 「ミセルバでしょ」 「あ……」 うふふふ……三人の笑い声。そっと三人は頬を寄せ合う。この地下牢では地位もなにもない。女三人平等ということだ。お互いにキスを交わす三人。仲良し三姉妹ってところか。どうやらまた淫靡な宴が始まるようだ。女の欲はきりがない。 この夜、三人は固い絆で結ばれた。なにも言わなくても……見えない糸で結ばれたのだ。この意味はいろいろな意味で大きい。特にリリスにとって……お姉さまという言葉は大きな意味を持つことになる。 非常に大きな意味を……。 ミセルバたちが淫らで美しい新しいきずなを確認しあってから三日後……。ここはレイカの執務室…… 「辞退?」 「ええ」 困惑しているリリス。 「辞退しろ……というのですか?」 「辞退したいと言うのよ」 ちょっと下を向いているレイカ。 「どういうことです?」 リリスが尋ねる。 「言われたとおりにして頂戴、私には向いてないと言えばいいのよ」 「…………」 リリスの顔に不満が募る。納得できない表情だ。 「なぜですか?ミセルバ様が私を選んだ時に拒否なんて出来ません、理由もありません」 「拒否じゃないの辞退したいという要望よ……ジボアール議長とね、バルザック騎士帝長からそういう方向に持っていくようにと言われているの」 「…………」 信じられないという表情のリリス。 「なぜ……ですか?どうしてあの方達が」 「もう……言わなくてもわかるでしょう」 「…………」 リリスはここで何かが後ろにいる事を感じる。そして何事か考えるような顔をしている。 「リリス、私はあなたが嫌いだから言っているのではないのよ」 「あら、いやにやさしいのですね……嫌いでもいいのですけど」 「もう……」 レイカも困っているようだ。レイカは確かにリリスが好きではない。しかし、彼女が優秀でシスアよりは使えることは分かっている。それにこんな形でリリスを次長の座から追い出してもちっともうれしくない。それに……シスアに対しての印象も今はもう違う。レイカは最初シスアの印象は良かった。レイカ派だったのだから。でもリリパットの愛人になったのなら、別だ。意図は明白。リリパットを使って……気に入らないのはシスアになってしまっていた。 「ミセルバ様は私を推す可能性は高いと思います」 さらに言い返すリリス。 「だからミセルバ様が推すのはいいのよ、あの方の意志を変えることなんてこの城にいる人間は誰も出来ないわ。そういうことじゃなくて……」 「ではどういうことですか?」 引かないリリス。ため息をついたのはレイカだ。 「……あなたが辞退をするという行為が大事なのよ」 「…………」 じっとリリスを見るレイカ。心配そうに見ている。姉が妹を見ているようだ。 「辞退してそれでもミセルバ様があなたを推せばなぜ、そこまでしてって……いう、理由になるわ」 「…………」 「そうすれば……ミセルバ様を説得しやすくなるのよ。あの二人にとって」 じっとレイカを見るリリス。何も言わない。ただじっと見ている。 「辞退したい人間を推すのは良くないとか……言ってね」 ミセルバは嫌がる人間に押し付けはしないタイプだ。まして今のリリスとミセルバ様との関係ならなおさら。 「…………」 「返事して、リリス」 「…………」 黙っているリリス。 「何か言ってよ」 レイカが問いかける。 「この件に……シスアは絡んでるのですか?」 「知らないわ」 「シスア……最近見ませんけど」 「ええ、休暇願いが出てるのよ」 チラッとリリスを見ながらレイカがつぶやく。 休暇願い?ミセルバ様はそんなこと聞いていないはず……。 「どうしても、辞退したいと言えというのですね」 「……ええ」 「それが私の……身のためになると言うのですね」 「そうよ」 はっきりと言うレイカ。ようやく言わなくても背後の力を気づいてくれたという表情になる。見つめあう二人。辺りは静まり返っている。まだお互いを見ている二人。レイカは返事を待っている。 「考えさせてください」 「リリス!」 ちょっと叫ぶようにレイカが声を出した。リリスは何も言わずに出て行く。 ――リリス……――わかって頂戴。私もこんな形で言うのは本当は嫌なのよ。確かにあなたは嫌いよ、でも……こんなことを平気で強制する人間も嫌い……そしてそれを利用する人間も……。 レイカはただただ哀れみの目でリリスが出て行った後の部屋を見つめていた。 |
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