ポポは教会の中に入っていった……

 立ち止まるルビア。


 ――誘われてる……


 間違いない……



 う〜ん……



 はあ〜どうしよう……



 正直言って少年に翻弄されていることにとまどうルビア。しかし相手は皇太子だ。

 ――う〜ん……

 迷っている……一回引き返してジトやクリティーナと共に……



 ――なに言ってるのよ、しっかりしなさい。

 大体ここでなぜ他の人間を呼ばなければならないのか? 子供じゃあるまいし、まして凶悪犯でも潜んでいるならともかく、相手は一人の少年である。当然一人で処理するべき問題だ。
 だが、いまのルビアにとってそれは大問題なのだが……

 

 ――だめね、しっかりしてルビア。これじゃこれから困るのよ。
 ためらいをふっきってルビアは教会に入り込んだ。


 どことなく身体が震えながら……





「なんてことだ!!」
 スッカラカンの宝物庫……金貨の入った宝箱20個がすべてなくなっていた。さらに入り口は壊されてもいない。堂々と鍵を使って入っていったとしか考えられなかった。
 


 さらに!……



 ――女狐参上! ありがとうございました――





 とだけ書かれた紙切れが一枚。


 顔を見合わせる兵士達。
「ふざけおってえええええ!!――――――」
 叫ぶ高官兵士。
「女狐って……あの女狐でしょうか? 信じられませんね、鍵をどうやって手に入れたのでしょう?」
 他の兵士があきれ返った表情で言う。それにここから20個の宝箱を持って行くとなれば荷車などがいる。相当な重さのはずなのだが……
「誰がここの鍵の担当ですか?」
 ジトが尋ねる。金貨がなくなっていたというので一緒にここに来ていた。

「確か……バリュウ騎士長の管理のはずです」
「そのバリュウ騎士長が部屋で倒れていたらしいわよ」
 クリティーナが現れた。いろいろ聞き込みをしていたらしい。
 
「本当か?」
「ええ……今ベッドで寝てるわ」
「ベッドで寝てる?」
 どうやら暴漢に襲われたらしい。ベッドでうんうんうなっているとのことだ。

「そうかそれで鍵を奪って……」
 悔しがる高官兵士。
「しかしなぜ騎士長担当とわかったのか?」
 ジトがぽつりとつぶやいた。実はこの王城では、宝物庫の鍵は騎士たちがそれぞれ管理をしているのだ。騎士は兵士の身分の中で王家にもっとも近くいることが出来る存在。逆にそれだけ信用がある者だけがなれる。といっても現実は試験に受かればいいだけだが。

 大事な宝物庫の鍵を騎士にあずけるなんてと思う人もいるかもしれないが、実はこれで忠制度をはかれるというわけ。不正をすればただではすまない、きちんと管理もしなければ自分の身も地位も危ない。
 一室に管理部屋を置くとそこを奪われたらへたすりゃ財宝とり放題になるからである。リスク分散と責任をもって忠誠心を植えつけさせるのが目的なのだ。

 それに宝物庫を多くの騎士たちが、別々に鍵を担当すれば賊が押し入ってもすべて奪われる確率は少ない。もっとも大事な宝物庫は王族が直接鍵などを管理しているというわけだ。鍵の種類は100以上もある。すべて違う鍵だ。もちろんマスターキーもある、当然それは王族が持っている。

「そういえばそうですな、何百ある鍵のうちどうしてこれが騎士長の担当と……」
 各々の鍵は定期的に交換している。そうして相互チェックもしているというわけだ。

 なのに……なぜ?



 ということは……内部通報者……
 


 鍵の交換情報を仕入れるにはある程度のクラスの人間……
 


 最近挙動不審か、行方不明といえば……



「たしかに。どうして騎士長のものと……」
 他の兵士達もそう思った。
 ジトとクリティーナが目を見合わせる。



 メルビン大尉……



「それより、盗んだ連中は城から抜け出せたのか? まだいる可能性があるはずだ」
 20個の宝箱は重い。一人一人が抱えてやっとのはずだ。

「それが……ね」
 クリティーナはもう結果を知っているようだった。ゆっくりと彼女は話を始めた……


後ろ ルビアトップ