「う〜ん、ここもめちゃくちゃだなあ〜」
 一人の少年が、書斎のようなところを片付けている。だが、自分の部屋ではないようだ。

「父上らしい〜な」
 いつも汚れている研究室。この少年の父親は、ずぼららしい。ほうきでサッサと部屋をはわく。結構楽しんでいるようだ。こういうの、好きなのだろうか?

「うん、綺麗になった」
 満足そうである。

 と、その時……

「ぼっちゃん! ぼっちゃん!」
 
 ――ん? なんだ?
 下から聞こえるおばさんの声。メイドさんだ。

「なんですか?」
「急いで降りてきてください!」
「はあ〜」
 こういう時は、急いでおりたくない。
 たいていロクなことがないから。そう思いながらも、降りていくと……

 ――な、なんだ?

 二人の女性が、メイドのおばあんと何か話している。真剣な女性が二人……黒いマントで身体を覆っている。


 あきらかに、妖しい……


「ぼっちゃん、エルフインさんは?」
「父は、数日前から出かけてますよ」
 さらりと言う少年。

「いないのか?」
 ラゼが聞く。
「ええ、しばらくは戻ってこないと……」
「もしや、エンリンの方に行っているのか?」
 もう一度ラゼが聞く。
「え? どうしてですか?」
 いきなり人の居場所を聞かれると嫌な気分になるものだ。心で不機嫌になる少年。
「……ミレーユ、どうする?」
「仕方ないわね〜」
 いないのでは、どうしようもない。

「誰か、影文字に詳しい者はいないか?」
「影文字ですか? あの〜どういったご用件でしょう」
 今度は影文字だ。さらに怪しく思うぼっちゃん。

「……ミレーユいいな」
「ええ……」
 すると、二人は黒マントを脱ぐ……その姿と紋章に……驚く

 ……メイドとおぼっちゃん。

「私の名はラゼ、こちらは、自治区の領主ミレーユ殿だ」
「……は、あっ……は、はい!」
 びっくりしたのは、少年の方だった。いきなり妖しい女性達から、高貴な女性にはや代わり。
「君は、ここのなんだ?」
「あ、あの……僕は、エルフインの息子で、フィンと言います」
「あなた……詳しくない?」
 ミレーユが聞く。

「か、影文字ですか?」
「そう、これを読んでほしいの」
 そう言って、書き写した影文字を見せる。

 すると……

「え〜と、重いこそ、弱さなり。重いこそ、弱点なり。重い人に悪魔は討ち滅ぼされるものなり……ですか?」
「そう、そうよ!」
 読めるようだ、このフィンって少年は!

「君は、影文字を勉強しているのか?」
「ええ、父の補助研究でちょっと……」
「君よりも詳しい人、いるのか?」
 さらにラゼが聞く。

「う〜ん、どうでしょうか? こういうの、趣味でやっている人いないので……」
「複数の意味があると聞いているのだが……」
「あ、そうですよ、そういう場合もあります」
 この少年は、知識がある。

「教えてほしいのだ、これの複数の意味を……」
「はあ〜しかし、これだけでは……」
「だめなの?」
「はい、20から〜30ぐらい、意味があることが多いのですよ」
 フィン少年が言うには、別の意味になる場合は、その意味になるための、別の記号か、言葉が添えてあるはずだと言う。

 だいたいは、刻まれている石碑と一緒になるか、それを示唆する物のところにあると……

「言葉……」
 ミレーユは考える。神聖石碑には、そういうのは見あたらなかった……

 だが……

 ――もう一度見れば……

 そう、もう一度見る価値はある。

「ねえ、フィンって言ったわね。今からついてきてほしいのだけど」
「え? 今からどこへですか?」
「自治区の領主の墓よ」
 驚くフィン。
「で、でもそこは……一般は立ち入り禁止では?」
「領主の私がいいと言っているのよ」
 笑うミレーユ。


 ――ど、どうなってるんだ?
 一瞬、おかしいとさえ思う。だが、目の前にいるラゼとミレーユは本物のようだ。しかし、おつきはいない。

「あ、あの〜」
 戸惑う少年。
「こういう言い方は嫌だが……きてもらう、命令だ」
「……は、はい」
「ごめんなさいね、後でお礼たっぷりするから」
 ミレーユも申し訳なさそうである。


 ――怪しいな……
 おかしいと思うフィン。そりゃそうだ、共もつれずに、二人の身分高き者が、ココに来ること事態……

「あなた、信用していないわね」
「え?」
 図星を突かれる。
「だったら、本物と教えてやる」
 そう言うと、いきなりカプセルでフィンを宙に浮かせたのだ!


 ――わわわっ!

 驚くフィン。これで証明された。これが出来るダークエルフは、ある程度の身分でないと出来ない。

「来てもらうぞ、王族ラゼの命令だ」
「は、はい!」
 びびっている。横にいるメイドおばさんもびっくり。

 こうして無理やり連れて行かれたフィンであった。
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