女医
 ミセルバが浴場での出来事から一週間後。ここは城下町のはずれ、ミソンという村である。
ここに一人の女医が開業医として村に雇われていた。朝からだが、周囲に人が一杯である。

 ほとんどが男。

「はい!次!次の方」
 甲高い声で看護婦らしき衣装をまとった少女が忙しそうに声を上げる。
「でへへ、あの」
「どこが悪いのですか?」
「え、はい腹が痛いので」
「どうぞ」
 看護婦が奥に案内する。まったく・・昨日は熱があって・・今日は腹痛ね。明日はなんて言うのかなあの爺さん。怪訝そうな顔をしながら次の患者の顔を見つめる。

 こいつも二日前いたわよねえ〜はあ……。

 看護婦の心のため息は今日も一日続くことになる。爺さんが案内されたのは診察室。医療器具がズラッと並んでいる。部屋の中は消毒液特有の匂いが放たれていた。そこにその匂いを忘れさせるほどの一輪の美しいバラのような女性が椅子に腰掛けて座っていた。
 彼女の名はライザ、この国の中央の都で医者の資格を取り、この地方にやってきたのだ。顔立ちは、男勝りの勝気な雰囲気がある。キリッとした流し目。吸い込まれそうな瞳、高く美しいラインを描く鼻・・どれをとっても魅力的だ。
 女医は、うんうんとうなずきながらカルテになにか書き込んでいる。爺さんはにこにこしながら女医さんを見つめている。どこを見ているのだろうか?とても腹痛で苦しんでいる表情とは思えない。
 ひととおり話を聞いた後、爺さんは待合室に戻って行った。

 ――ふう、これも役目とはいえ、疲れる。

 ライザはポンポンと首を叩き、一息ついて
「はい、次の方どうぞ」
 これを繰り返すのだった。


「あ〜あもう嫌になりません?先生」
 看護婦の一人が今日の診察を終えてつぶやいた。
「そう言うな、これでうまく行っていればそれでいい」
 ワイングラスをくるくると動かしながらライザが微笑む。
「まあ、そうですけど」
「それよりどうした?最近すぐには帰らないね」
「ええ、もうここに来て半年、一通りこの村もみちゃったし・・帰ってもすることないので」
「ふ〜んそうなの?いい男みつからない?」
 
 男?男なんて……

 ライザ先生の美しさみてたら、それだけで、わたしは……。この思い、本当は伝えたい…でも。
「私はもう帰るよ。後の戸締りはよろしくねゼラ」
「あ、は、はい」
 ライザ先生、女性に興味はないのかなあ?看護婦の一人であるゼラは、せつなそうにライザを見つめていた。





 ふう、気持ちいい、風呂上りはいいわねほんと。体をゆっくりとベッドの上に横たえて、ライザはじっと天井を見ている。見事な肉体である。ところどころに男の視線を引き付けて離さないほどの魅力がある
 特にバストのなんともいえない形には惚れ惚れするほどだ。これなら毎日患者でもなくても通いたくなるのはわかる。しかも胸の谷間を強調するような服を着て白衣をまとっているから患者はたまらない。
毎日通ってくる男がいるのも当然であろう。
 ライザはしばらくするとスッと起き上がり、鏡を見た。ススッと衣服を脱ぎ始めるライザ。そして自らの肉体を芸術のように見つめ始めたのである。乳房の美しいライン、この乳房は極上品だ。ピクンと乳首は上向きに尖っている。
 この角度この位置ではないと芸術品としての価値はないというような乳首の形だ。うっとりと自分の乳房や乳首を見つめれば見つめるほど、ライザは自分に惚れ惚れしてしまう。
 
――ああ・・この体なら当然よね。男共が狂うのは当たり前。

 にこりと笑いながら右手を左の乳首に当てる。キュッと摘むとピクッと官能の渦が湧き上がる。ぺロッと舌を出し、自分の姿に寄っているこの女は両乳首を転がし始めた。鏡には自分の悶える表情が映っている。それがまたたまらないのである。
 
では今からゆっくりとこの美しい体を……と、快楽のひと時を楽しもうとした時、

 ――コンコンコン、玄関の扉を叩く音がする。
 あんっ、もう、こんな時間に……どうして?今からなのに。楽しみを邪魔された気持ちがライザを支配した。しかし彼女はこれが、思いがけないチャンスの到来とは思ってもいなかった。
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