――はああああ……はあ〜

 未だに身体の震えが止まらない。リリス――リリス……あの目。

 あの瞳――

 想像するだけでもビクビクする。執務室の部屋に一人でいるミセルバ。さっきの衝撃の出来事からまだ目は覚めていない。

 もし……許されるなら……ここ、ここで。


 思いっきり――したい。
 そう思いドレスの上から指を下半身に、胸に、当てようとした時、

 コンコン……

「失礼します」
 ロットだ。書類を持ってきたらしい。

「あっ、は、はい……どうぞ」
 サッと身なりを整える御領主。いつもながらたくさんの書類の山。サインするだけでも一苦労の量はある。気分を切り替えて次々に目を通していく。二十分ほどたった。いつものようにメイドにお茶を入れさせ休憩を始める。

「ミセルバさま、ちょっとお耳に入れたいことが」
「ん?なんでしょう?」
「実は……次のメイドの次長のことで」
「…………」
 ミセルバの目がピクッと動く。

 ロットまで……

「誰に言われました?」
「え?」
「ジボアール?それとも」
「え?いえいえ、私はちょっと気になっていただけです」
 ロットはちょっと驚いている。メイドの次長の話で今盛り上がっている城内。嫌でもいろいろな噂が聞こえてくるのでどうなっているのかと思って聞いただけなのだ。まさかいきなりジボアールが出てくるとは思わなかったロット。ミセルバはロットもなにか進言してくると思ったらしい。

 ――ちょっと考え込むミセルバ――


「ロット、あなたは次のメイドの次長には」
「え?」
 ロットが聞き返す。途中で言葉を止めてしまったミセルバさま。
「いえ、いいわ気にしないで」
「は、はい」
 不思議そうにミセルバ様を見るロット。ミセルバさま……お疲れのようだな。にしても……。
 メイドの人事でこんなに盛り上がる城内。平和な証拠だ。ロットは、このほのぼのさが大好きだ。
 だが、徐々にロットは現実を見ていくことになる。



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