死闘を始めてから一時間後……


 最高速で飛びつつける、戦乙女の姿があった。

 ラゼ……カプセルでだ。
 だが、カプセルのスピードはそんなに速くはない。人間が馬で疾走する倍ぐらいのスピードが限界なのだ。

「後、数時間はかかる……」
 急ぎたい! 急ぎたい! ラゼ。無理をすれば、さらに速度はあげられる……だが……

 ――力尽きてしまったら……
 へたに弱ると、現場について、逆にサルン捕らわれる恐れもある。余力もほしいのだ。

 ――まず……マレイアスに近づいて……渡さねば……
 近づくことさえ出来るのか? 



 それに、この考えは本当に有効なのか?


 わからない……自信がない……でも……
 やってみるしかない!

「こうなれば……後の事はどうでもいい!――」
 精神力をさらに使って、ラゼは速度を上げた!





 かなり時間がたった……

 王族たちの精神力、体力は限界にきている。王も少しずつだが、汗が出始めた。神聖エルフの剣を持つエルディーニもくたくたのようだ。

 やりの形で攻撃、無数の隕石のように攻撃、地下より、いきなり地面を割らせ、その岩や石を使った攻撃……すべて質量を与えている。

 決定的な効力はない。どんどん、疲れていくだけだ。もちろん、サルンもだが。ランカや、ミシェルン、ミックやインリたちもこのすさまじい攻撃をただただ、見守っていた。
 
「くそっ……」
 つぶやくエルディーニ。
 ひたすら責めずに受けているサルン。


 それに不気味なのは、なぜか、サルンは責めないのだ。


 王の結界は、予想以上に強い。さすがは、老いても王というところか。
 サルン一人なら、かなりの精神力とパワーを使えば、なんとかなる。 しかし、それで脱出しては、マレイアスたちは、置いてきぼりだ。

 さらに、出たとしても、その時の精神力はかなり使っている。下手をすると身も危ない。結界に父上がこだわる以上、外に出ることに力を使うことは、危険と考えたサルン。

 ――なにかある……なにか。
 いつまでたっても結界を外さない。使えば、使うほど弱るのは父の方だ。その証拠に、父の表情はもう違う……だが、なぜか父は違う行動に出ない。

 ――出れば、危険……
 そう考えたサルン。だが、その読みは、深すぎた。


 いや、その深さを与えているのが、ダークエルフの王だ。この後の罠などないのだから。

 (サルディーニが気づく前に……どうすれば)

 最初に他の王族と一斉に総攻撃という考えもあった王。しかし、それがだめな時は、一瞬で、勝負は終わる。

 その後には、むなしい時が……いや、地獄が始まってしまうのだ。

 この方法なら、時間はある。サルンが慎重な性格である限り……
 だが、時間があったら、どうなるというのか……

 王が、目でラブゼンとエルディーニを呼ぶ。その様子を目で伺うサルン。

「私を、光の玉ごと、サルディーニにぶつけよ」
「し、しかし……」
「判断するのじゃ、ラブゼン。その後、弱ったサルディーニを剣でさせ! 怒りを込めて!」
 気迫のこもった声で言う。結局、最初の方法に戻すらしい。だが、サルンも万全ではない。消費はしているはずだ。
「……わかりました」
「行くぞ……結界を消す……」

 消えていく……結界。サルンが異変に気づく。


 ――来るな……
 サルンが構えた。だが、こちらから、責めるつもりはまだないようだ。
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