――倒せる? 私だけが?
 わからない、わからないマレイアス。しかし、確かにラゼは言った……


 倒せると……

 ゆっくりと上にいるサルディーニを見る女騎士……

「お……おのれ!――」
 さらに触手の数を増やし、マレイアスをはがいじめにする! そして無理やり近づけさせた!
 剣を自らの手で奪う行動に出たサルディーニ。 マレイアスの腕を掴み、力を入れる。

  なすすべのないように見える女騎士。あっという間に、何もできなくなってしまった。

 (な……?)

 しかし、驚くサルディーニ……


 自分は……腕の力を弱めるために……爪を女騎士の肉に食い込ませようとした……


 力が入らない……抜けていくのだ……
「ど、どういうことだ!――」
 爪をマレイアスの腕の肉に食い込ませ、痛みを与えて、剣を離させようとした。

 ところが……


 できない……


「な……に?」
 信じられない行為に、驚愕するサルディーニ……自分の意思とは違う行動をする自分の手……
 あせる……あせるサルディーニ。今までとは違う感覚が自分を襲う!

 そのあせりを見逃さないマレイアス!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!――――」
 強制的に后にされてきた夫に向かって、怒りの剣を振り上げた! 
 振り上げられた剣を見る少年王!

「くっ……」
 腕をがっちりと掴む……マレイアスの力は、あくまで人間の女のパワーだ。ダークエルフの少年王にはまったくかなわない。だが、この状況での女騎士の行為に、むかつきを覚えるサルディーニ。

 (こ、この……)
 いい気になりやがってと思ったのだろう。愛する后にお灸をしてやろうと考えるサルディーニ。そのまま、腕をこぶしにして、顔面を殴りつけた!――


 殴りつけた!――

 ……んっ……


 ……あ、あれ?

 ラゼが目を丸くしてみている……
 
 ――マレイアス……

 やはり……
 マレイアスだから……? 


 そうなのね……そうなのね……

「おおおおおおっ!――――」
 
 馬鹿なという表情のサルディーニ!
 こんな馬鹿なと思うサルディーニ!
 信じられないと思うサルディーニ!

 こぶしが……拳が……数ミリというところで……


 止まった……マレイアスの顔の前で。

 (な、なぜだ……なぜ……)


「あっ!――――」
 ハッとわれに返る! 瞬間、腕が切りつけられた!

 信じられないサルン!
 信じられないサルディーニ!


「ぐわはああああああああっ!――――」
 甲高い声で叫ぶサルディーニ。神聖エルフの剣で切られた。この剣で切られた場合、しばらくは回復することが、再生することができない。傷はそう深くはないが。

 だが、この事実に……事実を受け入れられない少年王。

 おどろく、おどろくサルディーニ。
 とまどう、戸惑うサルン。

 この状況が理解できない。意味がわからないサルディーニ。


 (神聖エルフの剣力か? いや、そんなはずは……ない)
 神聖エルフの剣にそんな効果はない。剣の力なら、とっくに他の者が使っているからだ。

 ――たおせる……たおせる?
 半信半疑だった、マレイアス。しかし、少しずつ状況が飲み込めるようになってきた。
 そして、それは……希望を意味するのだ。
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