そのテニス部……

「翔子が、水泳部に?」
 三回生の一人が驚く。
「そうですよ、さっき水着着てましたから」
 きょとんと言っているのは一回生の子だ。

 あっと言う間に噂が広がっていく……

「ちょっと、聞いた?」
「よりによって……水泳部?」
「おかしいよ、どうして?」
 思うのは無理もない。水泳部キャプテンと亜津子は非常に仲が悪い。準部員でも亜津子が認めるわけがないのだ。

 それをみな知っている。

 ――翔子さん……
 如月舞は心配そうだ。あれから、SとMの絆関係の二人。

「ねえ〜やばいんじゃない?」
「うんうん」
 一回生の子たちは、今後の展開に危惧している。

「練習、始めるわよ」
 亜津子が叫ぶ。めずらしく自らが指導。噂話なぞ、眼中にはないといった感じだが。
 こちらも翔子に負けない圧倒的な存在感。
 白いテニスウェアは、見るものをよせつけない!

 ――翔子……
 一言も相談なしに、いきなりテニス部に来ず、水泳部に行く……
 明らかにこれは……

 挑発だ。

「ねえ〜優実〜 やばいんじゃない」
「そうね。やばいわね翔子は。馬鹿の典型だわ」
 馬鹿にするように言う。

「亜津子さん、このままじゃ済まさないわよね〜」
 
「そうね……」
 ポツっとつぶやくぶりっ子優実。

「今度来た時の言い訳が楽しみだわ」
 さらに、ぼそっとつぶやくサド娘。いそいそと練習に参加する。

 いきなり翔子は、部活動を無断欠勤した。
 こうして、挑発行為が始まる……



 その当事者翔子。
 平然と水泳部で楽しく泳いだ後、ケーキを買って帰宅。なんとも思っていないのか?
 さっそくおいしいケーキを頂こうと思ったのだが……

 ピピピピピッ……
 携帯が鳴る。

「あら、良子」
 音無良子だ。

「え? うんうん……聞きたい?」
 どうやら、水泳部に入ったことを気にしているらしい。
 さらにいきなり無断欠席では、心配するのも無理はない。

「ケーキあるけど……来る?」
 相手の心配をよそに誘う翔子。早速、部屋に来るとの事。

 ――さて……と。

 情報収集開始である。


「もう、無謀よ」
 ケーキ食べながら言う良子。イチゴのショートケーキは好物のようだ。
「うふふ」
 笑う翔子。
 良子が、心配そうに見ている。そりゃ心配だろう。
「一言言ってくれれば……」
「いいのよ、わざとだから」

「やっぱり……」
 翔子の性格ならと思う良子。

「いろいろ動くみたいね、あなたは」
「ええ、私は自由に生きたいの」
「勝てば……なんでも思うがままよ。この学園は。でも、負けたら……」
 心配そうだ。

「行動を制限されたり、従えというのは、この私には向かないわ」
 きっぱりと言う。確かに……
「協力してもいい?」
 そんな翔子に魅力を感じている良子。
「もちろん、必要なのよ」 
 そう言われるとうれしいものだ。

「この学園にいる人って、本当に独占欲とかが、強いのよね」
 説得は諦めたらしい。
「明日はテニス部へ行くわ」
「うん、そうしないとほんと、まずいからね。それと、舞ちゃんが心配してたわよ」
「あら? そう……」

 まあ、そうだろうと思うお嬢様。だが、これぐらいでびびっていては話にならない。
 ここで君臨するためには、抵抗勢力を倒さなければならないのだ。

 かつてどこかの国の首相がやったように……
 二人は、今後のことについておしゃべりを始めた。
後ろ 如月トップ