そして放課後、堂々とテニス部にやってきた翔子お嬢様。
 相変わらず完璧な肉体を、今度はテニスウェアで覆っている。美しい下半身に、男がいれば目は釘付けであろう。練習が開始された。コートで打ち合っている者たち。

 亜津子がコートに入った。優雅に身体を動かし、他の三回生を圧倒する。
 だが、翔子は気にしない。それより、別の人物の目が気になる。
 視線が気になる翔子。もちろん、その視線とは……


 ――うざいわね。
 優実だ。怨念のような視線が気になる。チラチラとぶりっ子の目が見ている。
 だが、そのぶりっ子の目は、ただの目ではない。
 明らかに目で犯すような雰囲気だ。お姉さまのプレイを見ながら、翔子に念を送っているかのようだ。

 その怨念のような視線を、翔子は完璧な身体ではじき返して行く。
 この完璧な身体に、怨念などは通用しない。
 ただひたすらわが道を開拓し、突き進むのみの肉体なのである。

 練習中、優実ははずっと怨念を送っていた。


 さて、練習が終わる。すると、翔子は呼び出された。
 話があるとのこと。

 テニスウェアのまま、こつこつとテニス部のキャプテン室へ行く。
 顧問の先生とは違う部屋だ。目の前で、一瞬だけ翔子は止まった。

 そして……ゆっくりと舞台に入る。

「失礼します」
 すると、三回生が数人と、亜津子がいる。

 それと……優実。

 ――いそぎんちゃくもいるのね。
 第一印象はこれだ。

「いつも元気ねあなた」
「ええ、それが取り得ですから」
 にこっと言い返す。

「早速ですけど、翔子、水泳部に準部員として入部したというのは本当?」
 椅子に座って軽く睨む亜津子。周りに三回生が数人取り囲むようにいる。
 正直、これには威圧感がある。これじゃ尋問だ。

 シーンと静まり返るお部屋。


 いよいよ、尋問が始まった。



「ええ、そうですけど……何か問題が?」
 だからなにという表情の翔子。
「水泳部のキャプテンには同意を貰えたのかしら?」
「もちろんです」
 当たり前だ、だから水着で昨日は泳いだ。

「そう、でも……私に一言、相談してほしかったわ」
「あら、亜津子さんに相談しないといけなかったのですか?」
 平然ととぼける。

「当たり前じゃない、あんた馬鹿?」
 優実がいきなり挑発する。クラスでの仲のよい雰囲気はどうした?
 表情も全然違う。なんて裏表のある女だ。

 全然雰囲気が別だ。

「馬鹿とは失礼ね、それはあなたに言うべき言葉よ」
 返す翔子。
「な、なにいい〜」
 ガラが悪い。優実の本性だ。目がピクッと動いた。

「やめなさい優実」
 亜津子が止めた。
「翔子、準部員になるのは自由だけど、今度からは一言相談して頂戴。昨日のように、無断で部活を休まれては困ります。いろいろと抑えが聞かなくなるから」
「ん? 綺羅さんが、私から話しておくと言っていたのですけど……」
「知りませんわ、そんなこと」
 テニスウェアのフトモモをチラチラと揺すりながら、言葉を返していく亜津子。

「綺羅がそんなこと言ったの?」
 別の三回生が聞き返した。
「ええ、そうですけど……まあ、ごめんなさいね、結果的に無断で休むことになってしまって」
 微笑んで返すお嬢様翔子。これも口裏あわせ済み。

 こうなれば悪いのは綺羅の方でもある。

「悪いと思うなら、準部員やめなさいよ」
 ガラ悪娘の追求だ。

 その声にゆっくりと顔を向ける。きつい目が光った。
「準部員なら入るのは自由でしょう。そういうこと……おわかりにもならないの?」
「あんた、うちが水泳部と仲悪いの知っているでしょう? そういうの、把握してないわけ?」
「あら、知りませんでしたわ」
 あくまでとぼける。あれだけ良子と情報交換していて、知らないわけがない。

「知らなかったで済むなら学校も警察もいらないのよ」
 さらに凄む。だが、翔子は動じない。

「私、最近転校してきましたから……」
 お次は初心者を装う。
 また微笑む翔子。勝ち誇る表情だ。これは絶対に引かないという決意。

「そんなの理由になら……」
 怒鳴るように言いかけた優実を止める。

「おやめなさい、優実」
 また亜津子が止めた。

「わかりましたわ。理由がわかればそれで結構です。ただ、今後は水泳部に行く時は、事前に一言相談して頂戴。勝手に休まれると困りますから」
「一週間に一回ぐらいは行きたいのですけど」
 尋ねる翔子。

「ええ、いいわよ、お好きにどうぞ。準部員になることは、ルール違反ではないですし。ただ……」
 そう言ってチラリと丸山優実を見る。

「行く時は、優実に一言お願い」

 ――一言? ふ〜ん、なるほど。わざと優実に言わせる……というわけね。

 
「……わかりましたわ」
 
 優実にわざと連絡役をさせようというわけだ。

「いいわね、優実」
「別にぃ〜勝手にすれば〜」
 納得しないようだ。

「以上でよろしいのかしら?」
 翔子が聞いてきた。
「ええ……今回は……ね」
 これで幕引きのようだ。くるっと回って、翔子が部屋を出ようとする……

「翔子」
 亜津子が呼び止める。
「何か?」
 亜津子を見る翔子。

「優実と仲良くしてやってね。この子、あなたの事、凄く気に入っているのよ」
 笑う三毛亜津子。

 ものすごい嫌味だ。

「そうよ、私、あなたのことだ〜い好き」 
 とたんにぶりっ子だ。
 恐怖の裏表女。

「そうですわね、みなに仲がいいって言われていますから。だったら優実、あなたも協力してもらわないと」
 さらに微笑んで言い返す。言われたままでは終わらない。
 そう言って部屋を出ていった。

 如月翔子が出て行った。この尋問のような状況にまったく動じないお嬢様が部屋を出て行く。


 出て行った後、さっそく密談が始まる。

「ありゃ、相当の玉よ、亜津子どうするの?」
「…………」
 亜津子は黙っている。

 これは間違いなくやっかいな人物だ。
 しかも、圧倒的な存在感は亜津子と同等の力がある。
 だから亜津子は慎重なのだ。

「出て行って貰った方がいいと思うけど」
 間違いなく、爆弾を抱えることになると予想する三回生たち。


「そういう勝手はさせないわ。それに……」
 亜津子が語気を強めた。ここで追い出すのは簡単かもしれない。
 だが、部員は減ると正直困るのだ。

 さらに、下手にやると逆手に取られて、逆に文句も言われそうだ。

「出て行かせるもんですか!」
 にっと笑う優実。出て行ったら面白くないのだろう。テニス部いれば、いつでもいじめれると思っているようだ。

「まあ、これで綺羅に文句言える口実は出来たわね」
 今度は、綺羅を追及していくつもりらしい。前々から対立して女性。いずれ決着をつけようと思っていた。

 だが、今すぐというわけではないらしい。

「優実、翔子とは仲良くね。表向きだけでもいいから」
「は〜い、お姉さま」
 にこにこと言う。恐ろしい後輩女だ。
 呆れているのは他の三回生の女生徒たち。

 こうして、初戦は終わった……
後ろ 如月トップ