校外に出る翔子。すると、良子と舞が待っていた。
「あら……」
 微笑む無敵のお嬢様。
「大丈夫だった?」
「ええ……」
 にっこりと笑う。

「翔子先輩」
 うるうると悲観な目で見る舞。この目はかわいい。
「大丈夫よ、それより今からどうしましょうか?」
 どうやら遊びたいお嬢様。さっき争いがあったばかり、気分を入れ替えたいのだろう。

 三人は、ゆっくりと商店街に消えていった。



 数日後……
 綺羅はある場所にいた。
 場所は生徒会の一室……シーンと静まり返った放課後。

 そこに、三毛亜津子と三藤綺羅がいる。

「一言、相談がほしかったのよ」
「別にわざとじゃないのよ、亜津子、いえ、ここでは亜津子執行部長と呼べばいいのかしら?」
 半分睨んで、半分笑っている水泳部キャプテン。
「二人だけだから亜津子で結構よ」
 さっきから見つめあている二人。いや、にらみ合っている。

「とにかく、謝るわ。それで気が済むなら」
「そう……」
 あっさりと謝った綺羅にちょっと拍子抜けのようだ。

「じゃあ、帰るわね。執行部長さん」
 ちょっとだけ笑う綺羅。
「待って」
 亜津子が止める。

「何かしら?」
「今度の……選挙……私に入れてくれるかしら?」
「…………」

 一瞬、シーンとなる二人。また生徒会の一室が静まりかえる。
 
「嫌だといったら?」
「翔子を水泳部には行かせないわ」
「そんなこと出来るの?」 
 笑って返す綺羅。

「ただ集める目的で入れた幽霊部員は、準部員としては認められないわよ」
「でも、現実どこもやってるじゃない」
 どこでもやっている部員集め。人が多ければ多いほど、予算などの優遇を受けるのだ。
 どこの学校も同じである。

「私が、認めないといったら……わかるわよね」
「評議会にかけて……というわけ?」
「ふふ……」
 笑う亜津子。美しいサディスト。執行部長は評議会を自分の意思で開くことが出来る。
 さらに亜津子は評議会の過半数を取れるだけの力を持っていた。
 ここで、水泳部の準部員を全員、幽霊部員と認定させれば、水泳部の予算はがた落ちだ。

 もちろん、どこもやっていることなのだが……
 にらまれると不当な扱いを受ける。

 どこの世界も同じ。

「その代わり、選挙で投票してくれたら……待遇を考えてもいいわよ」
「…………」
 
 ――ふ〜ん、取引しようっていうのか……
 綺羅は黙って聞いていた。



「おいしい〜」
 如月舞が舞い上がっている。

 ケーキに……

「よかったわ、気にいってくれて」
「はい」
 舞はうれしそうだ。ここは最近、翔子お気に入りのお店らしい。
 舞は、連れてきてもらって感激している。すると、良子が話を振ってきた。

「そうそう、もうすぐ選挙よねえ〜」
「選挙?」
「うん」
 音無良子がケーキをほうばりながら言う。めがねが落ちそうだ。

「生徒会の選挙があるんですよ」
 幸福に満ちた舞の顔。
「生徒会長の選挙のこと?」
 生徒会のことも、良子からはいろいろ聞いていた翔子。だが、興味がなかった。
 そもそも、前の学校では飾りのような組織だった。
 さらにナンバーワンである翔子には関係ない。
 生徒会長どころか、校長でさえも相手にしていなかったのだ。

「そろそろ、私に入れてくださいっていう時期なのよ」
「ふむふむ」
 生徒会ねえ〜 っていう顔だ。将来は誰でもそういう組織にはお世話になるが。

 ――生徒会ね。お飾りだったけど。私がいるとこは。
 興味なしの翔子お嬢様。

「今度は亜津子先輩がなるんでしょうか?」

 ――え?

 翔子が耳を疑う。

「亜津子が?」

 怪訝な顔をする翔子。

「うん、前回の時は、次点だったんですよ」
 舞は素直だ。ポンポンと言う。

「今度こそと狙っているはずよ」
 良子が、翔子に振る。
「ふ〜ん」

 生徒会か……

 校則に書いてあることを思い出す。生徒会には部活動などに、与えられた予算や、使う資材、場所などの振り分けをする権限があるのだ。
 予算は、部費だ。その部費は準部員を合わせた部員の数で決まる。
 だから、準部員でもほしいというわけ。
 さらに、場所も重要だ。運動場や、練習に使う場所の時間なども、話し合いで決まる。

 このようなことを決めることが出来るのが、生徒会の執行役員評議会だ。そのトップが執行部長。それをまとめるのが、生徒会議長、さらにその上に生徒会副会長、選挙で当選した生徒会長がいる。

 つまり生徒会に物言える力を持つと、いろいろと部活動にもメリットがあるのだ。

 生徒会は生徒会長、副会長、次に、議長、執行部長の順に、役職がある。部活動の各々のキャプテンは、みな自動的に執行役員になる。

 さらに部員の数が多いと、執行役員を追加させることも出来る。
 この場合の部員は準部員も含まれる。準部員は二人で一部員として数えられる。

 ここがネック……
 だからこそ、幽霊部員でもいいから対面上の準部員を増やすというわけ。


「こっちでは機能してるのね」
 クイッと髪の毛を揺らす翔子。そのしぐさがたまらない。
「大変ですよね〜」
 まるで他人事の舞。正直、こういうむずかしいことは、よくわからないようだ。

 ――亜津子が生徒会長?

 翔子は窓の外を眺めながら考えている。
 生徒会など興味もなかった翔子。わずらわしいと思っていただけだったが……

 だが、そこに三毛亜津子の名前が出てくるなら別だ。

 外の歩いている男女をぼんやり眺めながら翔子が考えるのだった。

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