それから一週間……翔子は、学校とテニス部と寮の三箇所のみの移動の毎日だった。 外出しようと思えば外に出ることももちろん可能だ。だがあまり意味がないかもしれない。 この学園では。 なぜなら学園敷地内では、女の子が行きたいような所が揃っているのだ。 喫茶店、服飾店、簡易デパート等。 実は学園の敷地の横には一つの商店街のような所がある。そこには学園から外に出なくてもあらゆるものが売ってあり買うことが出来る。もちろん品物も次々変化する。特に女性は制服、私服共にファッションには敏感だ。流行モノ、レトロモノ時代の先取りも手抜かりは無い。 セクシーなファッションだってもちろん売ってある。個性を重視するのもこの学園の方針の一つ。 もちろん、学校へ行くときは制服でなければならないが。 なぜこのようなモノを作ったのか?それはもう安全のためである。お嬢様と、おぼっちゃまの行く学校。 一歩学園の影響力外にでればこの制服は目立つ。特に女子の制服は誰でも知っている。 寮生活でない生徒の場合、親が毎日迎えに来る家もある。制服のまま帰ってくるのが危険だというのだ。 あまやかしているようにも見えるがこの物騒な時代、ある意味仕方ないかもしれない。 生徒たちにもこの簡易商店街のような所は好評である。 半年近く学園敷地内から出たことがないという生徒までいる。 ――ほんとす……すごいわね。 噂には聞いていたが、まさに小さな町がくっついているようなのだ。すべて、国の補助金と、授業料、寄付でまかなわれている。長い髪を風になびかせながら、ゆっくりと翔子は歩いていた。 いるのは男子部と女子部の生徒、そして治安維持のための警備員。他の者は許可無くば一切入れない。 今日はこの喫茶店に入ろうかしら。喫茶店も何件目だろう……1,2件ではすまないほどだ。 ――テニス部が休みだと……暇ね。 最近はパターンが決まり初めていた。学校が終わるのが3時過ぎ。 それから部活、6時ぐらいから数人で喫茶。 帰ってから後は寝るかその前に……ちょっと欲求がきたら……うふふ、といった所だ。 この一週間で、学園での生活にも慣れてきた。印象に残っている生徒も徐々に増えてきている。 同じクラスで気になるのがまずあのあどけない顔で裏表の激しい丸山優実。 次にテニス部の情報屋である音無良子。そして最近気になる女生徒が一人。 初めてクラスに紹介されたとき、最初に目が合った子。 そう、丸山優実が声をかける前に見た女生徒だ。名前は有機香。物静かな女性。 口数も少ない……というか全くないといっていいほど。 それでいて目付きがするどく、力強い印象を受ける女。一昔のスケ番のリーダーと言った感じの女生徒だ。 いつも一人でいる事が多い。だが嫌われているというより、近寄りがたいという印象がある。 そういえば昔、学校の女生徒が襲われかけたときに、暴漢を4人倒したらしい。 いまやクラス中どころか、学園内でその名を知らぬ生徒はいない。 ――ああいうのって……苦手なのよ。 向こうから決してトラブルを与えてこないタイプ。いいがかりをつけられても、翔子は口や行動でも負けるつもりは誰にもない。が、何もしてこないというのが大の苦手なのだ。 しかも存在感もあり、他の生徒にも一目置かれているならますますやりにくい。 丸山優実のようなタイプならある意味大好きでもあるのだが。 ――まだあの子とはしゃべってないのよね。まあ〜別にいいけど。 だが妙に気にかかる。あの独特の流し目は男性的な魅力がある。翔子も何か惹かれるものがあるらしい。 男だったらいいのにという生徒も多いのだ。 「今日は一人なの翔子?」 突然声をかけられる、 ――驚く翔子、 ――最悪、ね…… 丸山優実である。こんな所で会うとは。向こうももう嫌っているのは、この一週間でわかっているはず。 いい印象は相手も持っていないはずなのに……。 ――たいした女…… 「ええ、たまにはね」 テニス部で仲良くなった子と、このところ毎日、喫茶でおしゃべりを楽しんでいた翔子。 「ねえ、こっちに来ない?」 「え?」 「紹介したいのよ、あなたを」 向こうに何人かの男達がいる。いい印象をおそらく持っていない女を連れの男に紹介? ――どういうつもりかしら?裏がありそうね。 だいたいはわかる。 ――揉め事のきっかけ作ろうって事?それとも……。 ――どうする? ――乗ってみる? 男たちを見る。三人だ。どこにでもいそうな男は二人。後一人がちょっと気になるくらいか。 ――あら。 どうやら翔子の好みのタイプらしい。 ――行ってみようかしら。面白そうね。 先約がある翔子だったが、あえて今回は優実の企みに乗ることにした。 「いいわ」 「ほんと? 優実うれしい〜」 後ろから翔子の肩を抱き寄せる優実。にこにこしてはいるが明らかに裏が見え隠れするような感じ。 やはりこの女は、いやらしい性格なのかもしれない。 優実に連れられて翔子は男たちのテーブルに向かっていった。 |
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