「いやあ〜きれいだなあ」
 どうでもいい男の一人が口説き始めた。
「ありがと」
 翔子は冷静に答える。こちら側に翔子と優実。向こうに男三人という組み合わせだ。男たちはみな1回生のようである。いわゆる後輩だ。

「どう?学園生活にはもうなれました?」
「ええ、まあまあですわ」
 どうでもいい男の一人は、どうやら翔子を気に入ったらしい。ちらちらと翔子を見ている。
「翔子ね、テニスもすごくうまいのよ、びっくりしちゃった」


「ほう、お前よりうまいのか?」

「うんうん」
 翔子の好みの男の問いに答える優実。お前、言い方に妙に親近感を覚える。
 
 ――もしかして……彼氏?

 その考えは当たっていた。
「この三人の中で、一番いい男のこの人が私の彼氏で〜す」
「おいおいなんて紹介の仕方だよ」
「ふふ、だって自慢したいもん」
 どうやら彼氏を見せ付けるために声をかけて来たらしい。

「ほんといい男ね」
 わざとらしく返事。

「いや、そういうと照れる」
 彼氏がはにかむ。男の名は中野篤。この三人、いや、それ以上のグループのリーダー格らしい
 俳優でいえば、ジャニーズ系の男だ。

 ――う〜ん、ぎりぎり合格点かな?
 翔子の男のボーダーラインには入れる人物らしい。

 この後、翔子達は30分ほどおしゃべりを楽しんだ。


「じゃあねえ翔子〜」
 感高い声がこだまする。優実たちは、この後カラオケに行くらしい。
 翔子も誘われたが、今日は先約があるという事で断った。

 この中でやはり印象に残った男は中野篤。顔は翔子の好みのタイプ。
 美形の青年といった印象が強い。だが優実の彼氏と言うだけで、なにか解せないモノがある。

 ――でもほんと、優実にはもったいないわね。
 翔子の素直な感想である。

 ――それにしても……自慢したかったのかしら?
 それだけのため?

 だが……後に、翔子は先約の良子と、寮で会うことで他に意図があることを知る。
 丸山優実……彼女は想像以上の女だったのだ。



「こんばんは〜」
「いらっしゃい」
 翔子がにこやかに答える。丸山優実とは違う、裏表のない笑顔。ここは翔子の部屋だ。
 今日は良子が遊びに来てくれたのだ。良子も翔子が友達としてお気に入りの一人になっていた。
 なぜなら、とにかく翔子は聞いてくれるのだ。

 理由はただそれだけ。
 それだけ無類のおしゃべり好きなのである。まず黙っている事はない。
 しかも、学園の裏事情とかも詳しそうだ。情報収集にはうってつけの人物。

「え?優実に?」
「ええ、一緒にお茶に誘われたわよ、彼氏でも自慢したかった見たいね」
「…………」
「どうしたの?」
「優実には近づかないほうがいいわよ……ほんと」
「なぜ?」
「…………」
 黙ってしまった良子。やはりあの女、自慢だけじゃなかったみたいね。

「なにかあるの?あの子、確かに裏表激しそうだし」
「結構強引なとこあるから……」
「あら、そうなの、まあ〜あの性格だからね」
「…………」
 翔子と目が合う。さっとそらす良子。

 ――なにかいろいろ知ってそうねでも……これは聞き出すの苦労するかな。
 知っている事はすべて聞きたいのが翔子の本音だ。

「そうそう、あなたをさあ〜気にかけている子がいるのよ」

 ――そらしはじめた。

 ――まあ、いいか。

「誰?」
「舞ちゃんよ、如月舞ちゃん」
「ああ、あの子……同姓だからわたしも印象に残ってるわ」
「あの子ねえ〜結構、少女チックなとこあるのよ」

 ――なるほど、もしかしてあこがれの対象にされているのかな?

 ――ふふ、まあ、あの子なら気分悪くはないわね。

「迫ってくるかもよ〜」
「ふふふ、面白いわね。一度しゃべってみたいし」
「よし、今度私が、機会作ってあげる」
「よろしくね」
 正直舞ちゃんの事は今はいい。だがここはゆっくりと聞き出すのが正解だろう。
 まだ良子は心を全部許してはないはずだ。

 そう思いながら翔子は、良子のさまざまな噂話に聞き入っていた。



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