「……そう、もういいわ」
 レイカはついにあきらめた。ミクと別れたあと、
リリスとレイカはここで20分以上言いあいをしていた。

「…………」
 黙っているリリス。散々言われても決して屈しない姿勢だ。
 レイカの執務室がシーンと静まりかえる。ついにメイド長はあきらめた。といっても今日だけ。

「いいわ、今日はここまでにしておきましょう」
 まだ最後まであきらめていないレイカ。
「しつこいですね、まだするのですか?」
 言い返すリリス。しかし心の底から憎しみでは言っていない。なんとなくレイカの気持ちを理解しながら言っているようだ。徐々にレイカが本気で心配してくれているという気持ちにはなっている。

 

 でも……嫌なのは嫌……たとえ……


 ……わざとでも言いたくない。


 自分が辞退したいなどと言えばミセルバ様は必ず理由を聞いてくる。
 そこでリリスが誰だれに圧力を受けていますといえば当然ミセルバ様は誰かを突き止める。

 言わなくてもミセルバは理由を突き止めるか、戸惑うだろう……

 さらにジボアールとバルザックの名前を出せば二人に当然尋ねるだろう。

 それが狙いなのだ……向こうは……



 もちろん二人はツス家の誰かとは絶対に言わないだろう。
 しかしミセルバも必ず気づく。でも……気づいたところでミセルバ様は……

 悩むだけ……おそらく……悩むだけしか出来ない……



 だったら……何も言わなければいい。そうすればミセルバ様によけいな心配をかけずにすむ……
 それにそこまで言うのならあの二人が直接言えばいいのだ。


 でも二人は絶対直接は言わないだろう。


 それも……もちろんわざとだ……

 



 あくまでリリスに言わせるのが目的なのだ……



 そして……従わなかったときは……





 その時だった。

「レイカさん、いいかな?」
 ロットの声だ。リリスがここにいるとわかってきたらしい。

「あ、はい、どうぞ」
 レイカが声をかける。ロットが入ってきた。

「こんにちは、ロット様」
 にっこり微笑むリリス。久々にロットの姿を見た。
「あの、ミセルバ様がお呼びですよ」
「え……」
 リリスを見るレイカ。ちょっと考え込んでいたレイカ。
 まだ話をしたいと思っている。

「はい、すぐ行きますわ、一緒に行きましょうねロット様」
 と言って再び微笑むリリス。ちょっと顔が赤くなるロット。かわいい少年に一瞬戻る。
「リリス、わかってるわね」
「ええ、ミセルバさまの言う事に決して逆らったりしませんわ」
「もう〜そうじゃなくて」
 何も分かっていないという風に持っていくリリス。引くつもりも全くない。

「どうかしたのですか?」
「いえ、行きましょう、ロット様」
 と言ってにっこり笑い、そしらぬ顔でロットの腕を引っ張るリリス。思わずうれしくなるロット。
 あれからリリスともご無沙汰だ。そろそろペニスがうずいてきている。

 二人は出て行った。

 後に残されたのはレイカ一人。

 ――わかっていないわ……リリスは……怖さを知らない……

 女としてレイカはどうしても黙っていられないのだった。

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