その日の夕方。リリスが襲われかけてから、何時間かが経過した。ロットの部屋で2,3人がせっせと掃除をしている。毎日この時間帯になると各階の清掃も最終段階に入る。
 とにかく部屋数が多い。騎士が寝泊りするところ、メイド達の部屋もほぼ個室で全部ある。メイド達はみな住み込みが条件だ。夜もいろいろ仕事があるからである。といっても夜は巡回制なので残りは暇だ。

 ――ふう〜これでほぼ終りね。

 リリスが一息つこうとしている。他の二人はまだ机等を拭いていた。
「上がりましょう」
「はい、では私たちは次の部屋へ行きます」
「ええ、お願い」
 そう言って、女達は部屋から出て行った。ベッドにゆっくりと座るリリス。いつもならこれくらいの仕事はそうしんどいモノではない。しかし今日は別だ。

 はあ〜今日は最悪。

 気持ちはわかる。数時間前は貞操の危機だったのだから。怒りが、込み上げる……このままでは済ましたくないという気持ちが湧き上がる。だがどうしようもない。訴えたところで相手にもされないだろう。改めて騎士とメイドの身分の差というモノを思い知らされる。

 ――指……入れられた、のよね・。あの男に……クッ。

 ドサッっとベッドに倒れこむリリス。考えただけで辛い。確かに昔、こういう事はよくあった。生きていくために何人の男のペニスを受け入れたことか。だがこっちに来てから男の経験はない。その気もなかった
 レズのお相手で十分だったからだ。

 ……でも、ホント……良かった。ロット様が……

 はあ〜疲れた。

 うとうとし始めるリリス。ドッと疲れが出る。

 ――ねむい。

 このふかふかベッドは……甘い眠りに誘われる。どうやらそのまま……深い眠りに……ついたらしい。









やれやれ……今日も一日言われたなあ。こちらも疲れている少年が一人。
 ロットだ。今日もジボアール議長からいろいろ言われたらしい。

 ジボアール議長……ロットの側務官就任を最後まで阻んだ男。

 そして何十人いる側務官のトップであり、有力貴族とも深いつながりを持っている。慣例をことのほか重視し、改革という言葉を嫌う、典型的な頑固者だ。ロットにはきびしい男だ。
 だが身分はロットのが上のため、敬語を使っているというおかしな関係になっている。こういうことはよくあることなのだ。ジボアールは元平民。今は准貴族である。
 ロットは没落しても貴族は貴族。王家より剥奪されない限りこの地位は不動だ。たとえ貧乏でも。いわゆる家柄だけの……という感じだろう。
 嫌味を敬語使って言われるのは妙に変でつらい。

 ――嫌われてるものなあ〜

 ロットもなんとか関係をうまく持ちたいとは思ってるのだがなかなかうまくは行かない。ミセルバも何度かロットの側務官就任を希望したが、ほぼ30人強いる側務官の9割が反対したのではどうしようもなかった。強引にすればそりゃあ鶴の一声で出来るだろう。しかし後にしこりが残る。そこら辺はミセルバもわかってはいた。
 疲れた様子で部屋の扉を開ける。最近は城外にもほとんど出ていない。ロットは部屋を貰ってもうこの城には住み込み状態である。一週間に何回かは外に出る。暇な時はホントに暇なのだ。なにせミセルバ様の書類のサインで側にいるか、後は側務官のお手伝いぐらいだから。
 しかし月の終わりはなにかと忙しい。ここのとこ楽しみといえば……女医さんぐらいだろう。

 あれ?――


 リ、リリスさん……


そこにはまだ寝ていたリリスの姿があった。

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