「お願いします……協力してください」 ペコリと頭を下げる純情少女。それをじっと見つめるミリアム。 「断る……」 「あんたねえ〜断れると思っているの?」 シスアがまたペニスを掴んだ。これは痛い。 「う! わああっ! ちょ、ちょっと!――」 グィッと引っ張られる。冗談じゃない。 「ま、まて……わかった……」 「うふふ、協力してくれるわね」 「ああ……は、はやく!――」 引っ張られると痛いのはよくわかる。ようやくシスアが手を離す。乱暴な女だ。 ほっとするミリアム。やっぱりこの状況では不利だ。 「この縄を解いてくれ、詳しく話を聞きたい」 「変なまねしないでしょうね?」 「君とは違う」 「あのね! 握り潰すわよ〜」 また掴む! 「や、やめてくれ!――」 どうもミリアムは言い返さないと気が済まない性格のようだ。 「あんた、ほんとに生意気ね〜」 「君ほどではない……ぐわ!――」 本当に懲りない青年だ、黙っておけばいいいのに。 またペニスをいたぶられ始めた。 なんかじゃれあっているようにも思える。 「あ、あの〜」 プリナが困っている。向こうの二人の妙な雰囲気は続いては困るのだ。 その様子にミリアムが気づく。 「あ、す……すまない……縄をほどいてくれないか? 貴婦人さま」 「……あら、今度は素直になったのね、いいわよ」 遊んでいる暇はない、向こうの少女は真剣だ。 ミリアムが詳細を聞いたのは、服を着た後であった。 それから数日後…… 風俗街のような場所…… ここに一人の少年が歩いている。といっても全身をおおうマントのようなものを着ているが。 顔には男性用のベール、そして仮面をかぶって…… 仮面といっても目の部分を軽く覆う、アイマスクのようなものである。 こうやって自分を隠すのが普通のようなところらしい。辺りには売春宿もある。アイラの親父がやっている遊戯宿とは違ってレベルが低い。あっちは高級ラブホテルのようなところ。 どこへいくのだろうか? ――え〜と…… ロットは情報屋というところを探していた。情報屋というのは、いろいろな噂話をお金を払って仕入れるところだ。金さえ払えば、人物の素行調査の依頼、情報の提供などをしてくれるところ。言い換えれば興信所みたいなところだ。 ――あ……ここ…… 看板がある、なんでも屋と書かれてある。その下に紋章があった。と、ある妖精のような形の刻まれた紋章。これが情報屋という意味にあたるのだ。伝説ではこの妖精が、おしゃべりだったということからこれが隠語のようになっている。それにしてもみすぼらしい所。 だが、それは表向き。こういうところを経営しているのは実は成金が多いのだ。情報売っているだけなのだから。しかし、やっていることが世間的によくないので、豪華絢爛な店などにはしてはいけないという法の決まりまであるらしい。 そこにロットは入っていく…… ミセルバ様のご命令で…… まずは情報をということだろう。それにしても堂々と動けないというのは大変でもある。 入ると二階に案内された。みすぼらしい老人に案内される。 ここで待ってくれとのこと。 ――ふう〜 正直こういうのは嫌なロット。 聞く内容は…… ガッツとツス家のことだ。ガッツのことはリリスが今回のことで、口を開いてくれた。 ミセルバ様はかなり気にしていたようだ。リリスにはこれだけはしつこくなるほど聞いていたらしい。 レイプ未遂の件の件が特に許せないとのことだった。 どうやら香水の匂いがどうたらこうたら…… これがミセルバ様は非常に気になるらしいのだ。 それと今回の事件のてがかりだ……これは正直むずかしいが。 「待たせたな」 目の上に傷がある男が入ってきた。こちらは身分や顔は隠していない。大柄男である。まあ、こういうタイプでないと、きな臭い商売はやっていけない。 「どうも……」 頭を軽く下げるロット。今日はちょっと真剣だ。 「さて……誓約書、書いてもらうぜ」 「……はい」 誓約書とは、ここで知っただけの内容は、証拠として使えない、 秘密はお互いに守ること等……のことだ。サラサラとロットはサインをする。建前のようなもの。 「んじゃあ〜早速内容を聞こうか」 「騎士団長のガッツのことからお聞きしたいのです」 「ああ……あの男のことか。よし……なら1000……場合によってはまだ高くつく。いいかな?」 現代のお金にして約10万ほどだ。 「ええ……」 そういうとロットはお金を差し出す。ここから商売の駆け引きが始まる。 「よし、じゃあこれが情報受け取り証書だ」 と言って金と交換した。一応こういう証書などの対応はするらしい。もっとももめた時はまったく通用しないだろうが。 「ガッツのことならたくさんあるぜ、もっとも知ったところで……だけどな」 「構いません」 「女のことかな? 寝取られたとか?」 ロットを見てまずそう思ったらしい。 「いえ……何か……不正とかをしていないのかと……」 「ほう……不正ときたか」 少し考え込む。 「まあ、結構あるぜ。騎士団長の立場利用していろいろもらっているという噂だ。もっともこの程度のことはみなやっているがな」 「詳しくお願いします」 男が詳細を話す。 万引き犯人が金持ちの息子だったので見逃してやった、騎士の立場利用して人妻や女にちょっかい出している……など。あまりたいしたことではない。 「ほかに何かありますか?」 「ああ……あるけど……これでは足りないな」 さらに増額を要求する。ここからが本番だ。 「いくらですか?」 駆け引きが始まる。最初の1000は小手調べだ。 「別に2000……いただこう」 「はい……」 サッと2000の金貨を差し出した。ためらいもなく。これにはちょっとだけ驚いた。 平民の場合ならば、ためらう者もいるからだ。これじゃあ駆け引きにもならない。 「ふむ……お前さん、気前いいな」 サッとその金を懐に押し込む。また証書に金額を書いて渡す。 「これはもう慣例らしいが……騎士団長クラスになると密輸のお手伝いをしているらしい」 「密輸!」 仮面の中の目が光る。 「ああ、昔からだ。代々の騎士の上官クラスが引き継いでいるらしい。港にくる禁輸品を流す役目らしいな」 「それを……騎士が……ですか?」 まじめなロットには信じられない。 禁輸品は持ち込んではいけない品物だ。麻薬などの薬もその一つ。 本来なら取り締まる立場のはず。 「騎士は何かやっていても役人どもは、まったく手は出せないのは知っているだろう? それを悪用しているのさ。もっとも流れている品の利益は、最終的にアウグス家やツス家のもんだけどな」 「……そうですか……」 「ふっ……ガッツに恨みでもあるのか?」 「いえ……」 聞かれてサッと逃げるロット。 「ま、これを聞いたからといってガッツは追い込めんぜ。後ろにかかわっている家がでかすぎる。もっとも、とかげのしっぽ切りでガッツだけならなんとかなるかもな」 「……ええ……そうですね」 ロットはわざとらしく相づちを打った。 「ほかに何かありますか?」 「もうねえな」 ガッツのネタは尽きたらしい。もともと大悪人ではないのだから、これぐらいである。 「じゃあ次に……アウグス家とツス家のことをお願いします」 この言葉を聞いて、目の色が変わる男。 一瞬間が開く……そしてちょっと笑った…… 「お前さん……この商売、誰のおかげで成り立っているかは知っているよな?」 「ええ……もちろん」 冷静なのはロットの方だった。すると男の方がさらに笑う。 「いい度胸だ、気に入った。だがこちらも商売だ高くつくぜ」 「いくらですか?」 「100000だ」 いきなりふっかけた!―― 「はい……」 しかし、平然と金貨を出すロット。 100000といえば1000万の値打ちがある。 大金貨と呼ばれる一回り大きい金貨を十枚差し出した。これは一枚100万にあたるのだ。 またまた驚く大柄男。そしてその金貨を調べた。もちろん偽者の場合があるから。 特にこの気前のよさでは怪しむのも当然だろう。 ――ふむ……間違いなく本物だな…… さすがにあっけに取られている大柄の男。この金額をなんのためらいもなくこの少年が出せるとは思わなかったのだ。実はロットはミセルバさまに、金額の交渉はせずに全部言い値を出しなさいといわれていた。まだ持っている。 おそらく億単位…… 「おい、公正屋呼んで来いや!」 奥にいる者に呼びつける。公正屋というのはこういう時に証人になってくれる人のことだ。実は立派な役人でもある。すると5分もせずに中年のちょっとこぎれいな男数人があらわれた。みな腕に腕章をしている。これが公正屋の証。これがないと公正証書というのを作れないのだ。 しかしタイミングよくあらわれるものだ。ここら辺は情報屋が集まっている。どうも、いつも何人かがある場所に待機しているらしい。 金額がある程度以上の売買などを契約で行う場合、この国では必ずこれが行われる。そうでないと契約は無効なのだ。もっとも裏の世界の契約ではそんなことは通用しないが。 すぐに男たちがその場で宣誓をする。そして両者に説明を始めた。 手馴れているものだ。こういうことはよくあることなのだろう。5分ほどで話は終わった。次に両者は契約書にサインをする。 これで成立だ。後は、大柄の男が公正屋に手数料を支払った。 「よし!―― いいだろう、知っていること、噂など、ありとあらゆることを話してやる。ただし、それが使えるかどうかは保障しないぜ」 ご機嫌な男。いきなり1千万ほどが手に入ったのだ。これだからこの商売はやめられない。 「ええ……構いません、そのかわりすべて答えてください」 ロットが聞き込みを始めた。 |
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