それから二週間ほど経ったある日……

 雑談に花を咲かせている男たちがいる。上座の皇帝が座るような椅子に、腰掛けている男。
 まぎれもなくリリパットだ。青白い上下の服。両手にダイヤをちりばめた指輪とブレスレット。筋肉質の50を過ぎた身体が妖しい美しさを出している。

 月一回ほど開かれる定例の座談会とでも言うべきものらしい。各々のギルドの実力者達が招かれている。それだけではない、あの騎士帝長とジボアール議長もいる。軽くお酒が振舞われているようだ。
 
 みな、ほろよい気分らしい。

 忙しく動いているのは、若い側近クラスの者達。あのミリアムもそうだ。
 おもてなしをしている。こういう場合、本来なら女性のほうが喜ぶものだが……

 しかし、その女性達が活躍するのは、この後の宴だ。前座はあくまで座談会なので、男性が相手をするという決まりらしい。

 リリパットの横にはあのラルティーナもいた。

 30過ぎてお嬢様と呼ばれるラルティーナ。このままリリパットに子種がなければ、まちがいなく後を継ぐ女性。
 綺麗なブルーのドレスにその身を包んでいる。
 ガバッと開いた胸元と、スリットの奥を悩ましく見せる美しい足には感動すら覚える。きりっと締まった女の表情は、あそこの締まりの良さ具合もあらわしているようだ。

 だが、誰もこの女に気軽に手は出さない。ときより見せる氷のような美しさに惹かれたら最後。
 へたをすれば命さえ凍らされるかもしれないからだ。その怖さがこの女性にはある。

 その女性の性欲を満たしているのが……あのミウ……

 これまたすごい組み合わせだ。

「ジボアール」
 ツス家の当主の低い声。

 お呼びがかかった。いそいそと御前に出るジボアール。

「ロットの件だが……」
「はい」
 ジボアールが返事を待つ。
「実は、ロットを正式に召抱えたいという者がおる」
「!……そ、それは……」
「その者へと向かわせようと思うがいかがか?」
 ジボアールに聞くリリパット。しかし、本来はミセルバ様に先に言うのが筋のはずだった。

「それがよろしかろうとおもいまする」
 以前より、ロットを合法的に排除してほしかったジボアール。ミセルバ様に信頼されているロット。将来側務官になれば、必ず力を持ってくるだろう。それを排除したいというのが議長の本音だ。

 側務官は平民がなるものだ、貴族になられては正直困る、特に落ちぶれた貴族になられたらもっと困る。

 とうとう、リリパットより、ロットの追放の許可が出た。
 だが、もちろん表向きに堂々と、そんなことは出来ない。

 ロットの男官をやめさせるかどうかは、ミセルバ様が決めることだからだ。

「後は私にまかせておけ」
「はい、その方がロット様のためになると思われます」
 なにがためになるだ。ただ追い出したいだけの老人。そう言うとサッと元の席へ下がる。

 するとお嬢様が口を挟む。
「兄上、あまり御領主を刺激なされては……」
「いつまで経っても何も言わぬ……困るお方だと思わぬか?」
 ぽつりとつぶやくツス家の当主。そしてワインをクイッと飲み干す。あれから二週間。アーチェの懐柔作戦もまったく通用しない。

 完全に無視の女領主。

「ロット殿を男官にするように進言したのは兄上ですが……」
「気が変わった……」
 さらりと平気で言い返す。するとラルティーナが、
「……だれかを……手に入れたいのですか?」
 女が絡んでいると判断。

「何のことかね?」
 とぼけているリリパット。酔いながらも大事なところははぐらかす。


 ギャンブル狂いの男、その妻ミシェスタシア。借金のある没落貴族の家……そしてその子ロット。
 きれいにつながっている。

 困っているお嬢様。確かに御領主は社交性がなさすぎるのだ。アーチェ様とは大違い。
 しかし、だからといってここまでする必要はないと思っている。

 まだ彼女は18歳……大人の決まりや、力関係を覚えてもらうのは本来これから……

 だが、リリパットはそうではないらしい。
 男の権力欲というのはすさまじいものだ。ミセルバが慣例に従おうとしないのか、それともそれさえわからないのか……それを見極めようともしているらしい。

 リリパットが雑談を楽しんでいる。
 多くのギルドの連中を楽しそうに見ているリリパット卿。この者たちはすべて自分の意見を伺って動いているものばかりだ。

 誰もアウグス家など本気に相手にはしてはいない。

 まして飾りの18歳のお嬢様など、どうでもいいのだ。

 それをこのギルドの連中に、認識させるためにやっているのが、
 この定例の座談会の目的であった。
後ろ ミセルバMトップ