忙しく動いていたツス家の側近たち。特にほとんどが若者だ。
 下っ端の者だけがこういうことをやらされている。こうやって経験を積んでみな成長していくというわけだ。

「ふう〜疲れるぜ」
 休憩中の若者達。年は十代が多い。ミリアムはここでは年長者にあたる。まだあどけない顔も多い年頃の少年もいる。将来はお互いがライバルだ。

「しかし、じじい共の相手は疲れるよな〜」
 生意気そうな少年がつぶやく。
「言うな言うな、将来はずっとおつきあいしないといけないんだぜ?」
 仕事だ、文句言うなと言いたいのだろう。それを黙って聞いているミリアム。めがねをいそいそと拭いている。ちょっと疲れているようだ。

「……お嬢様……いい女だよなあ〜」
 別の少年がポツリ。それを聞いた男達が、
「年上好みかよお前、俺にはもうババアにしか見えんがな」
 ツンと済ました男が言う。

 ――フッ……ババア……か。それを目の前で言う勇気のある者は、ここにはいないだろう……

 人生のすべてをかけて言うのならそれはありえるかもしれない。
 しかし、その後は地獄が待っているだけだ。

 この者たちも大変である。わがままな主を持つと最悪だ。
 しかし、ミリアムはこの休憩室の雰囲気がさらに大嫌いであった。他人の中傷、足の引っ張り合い、嫌味、妬みの宝庫だからだ。

 そう考えていると突然部屋の扉が開いた。その女性にみながびっくりする。

 

 ――ラ……ラルティーナ……お嬢様?

 びっくりするのも無理はない。こんな裏方の休憩所に来るなんて思いもよらないだろうから。
 あのミウも伴っている。メイドの格好をしたミウ。お側付で一緒に来ているようだ。

「ごくろうさま」
 スッと怪しげな笑みを浮かべるお嬢様。

 いったいなにしに……?

「つかぬことを聞くが……この中であのシスアの世話係はおるか?」
 少し険しい声で言う。
「わ、私でございますが……」

 ミリアムが答えた。十人ほどいるリリパットの愛人のうち、数人の世話係をやっているミリアム。その中にもちろんシスア貴婦人がいる。

「そなたか……ちょうどよい、話がある、部屋に来ておくれ」
 美しいドレスを身にまとったサディストの雰囲気を持つお嬢様。スッとさりげなくきれいな脚を見せながら。
 その側に静かにかしこまっているミウ。不思議な雰囲気を持つ二人。
「は、はい……」
 戸惑うミリアム。いきなり部屋に来いという。ミウがミリアムをチラッと見る。


 ――なんだ? ま、まさか……


 冷や汗が出るミリアム……嫌な心当たりならいっぱいありすぎるこの男。

「おい、聞いたか? お嬢様が男を呼ぶなんてよお〜」
 めずらしいこともあるもんだという表情だ。
「気に入られたのか? ミリアム」
 ミリアムと同期ぐらいの男がチラッとめがね男を見た。しかし、その目は好意のある目ではない。

「まさか……ふっ」
 サッとライバルの嫉妬心をはぐらかす。

 リリパットはいずれ勇退する……子はいない。そのあとは……あのお嬢様は……

 ということだ……誰だってお近づきになりたい。男と女の関係ではなく。

「逆に嫌われたりしてなあ〜」
 ちゃかす男。
「ライバルが減ってありがたいと思えよ」
 ミリアムが笑って言い返した。サッと部屋を出て行くめがね青年。正直、この休憩室から出る理由が出来てありがたいとも思っている。

 と、同時にゾッとする寒気にも襲われる。

 あのシスアとは嫌々ながらも一応仲間だ。二回目のセックスももちろん終えている。もし事がばれていればタダでは済まない。
 それともう一つ……怖い事実も最近知った……

 それも今のめがね青年の態度に表れている。

「ご案内いたします」
 ミウが部屋の外で待っていた。軽く挨拶するミリアム。二人はゆっくりと歩いていく。

 ――ま、まさか……ばれてはいないだろうな。

 ミリアムが気にするのも無理はない。あれからパリス家の一件を調べていくと……
 ラルティーナがかなり深く関わっているということがわかったのだ。
 
 もちろんロットやミセルバ様のような危機管理の甘い男ではない。確実に信用が出来る、その筋の者から情報を得たのだ。

「こちらでございます」
 ミウが声をかける。
「ミリアムでございます、失礼いたします」

 ミリアムが部屋に入った。
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