部屋にはうっとりとした表情でラルティーナが座っている。ちょっと酔っているようだ。飲みすぎているのかもしれない。この後は晩餐会の予定も入っている。でもワイングラスは手放さない。

「よくきた……そこに座れ」
 ソファに座るように促す。ミウが飲み物を用意し始めた。

 一抹の不安がよぎる。あのことがばれているのでは……と。

 しかし結果は違っていた。

「実は頼みがある」
「はい……」
 静かに答える青年。不安が少しだけ消えていく。
「シスアを調べてはくれぬか?」
「はっ?」
 
 調べる? どういうことか?

「あの女の弱みを知りたい……」
 見下すようにミリアムを見るラルティーナ。胸の谷間が非常にまぶしい。エロチックな匂いがぷんぷんする。
「弱み……でございますか?」
 いきなり弱みを調べろとのご命令。
「しかし……御当主からは……」
 その言葉に口を挟むお嬢様。
「愛人のことを詮索するなと言われているのであろう?」
「はい……」
 ミリアムのような立場の人間にはある暗黙の決まりがある。
 自分の仕えている者の愛人に関しては、決してその者の秘密を他人に漏らさないというのが常識であった。

 特にシスアの世話係である、ミリアムにはきつく言ってあるのだ。

「ミリアム」
 少し怪訝な顔でめがね青年を見る。
「は、はい……」
 するとラルティーナが椅子から立ち上がり、ゆっくりとミリアムに近づく。そして横にそっと座った。ミウが飲み物を持って近くのテーブルにそれを置く。

「そなた……私が嫌いか?」
「はっ……い、いえ……」
「では好きか?」
 にっこりと微笑むラルティーナ。

 この表情にだまされてはいけない。

「は、はい……」
 そう言うしかないだろう。さらにラルティーナが擦り寄ってくる。そっと青年の肩を抱く。そして抱いている腕を胸に当てた。おおきなおっぱいが柔らかく触れる……

「そうか、私を想ってくれておるのか……ならばその想い人のために人肌脱いではくれぬか?」
 無理やり想っていることにされてしまった。

 非常に困るミリアム。

「し、しかし……あっ……」
 股間に暖かい感触が伝わる……


 お嬢様の手が……服の上から……

「見返りは出す……」
「…………」
 股間がさすられる。冷や汗が出るミリアム。正直勃起する度胸はない。するとさらにラルティーナが近づいた。青年の耳元でささやくお嬢様。
「私はいずれ……後を継ぐ……わかるな?」
「は、はい……」
 リリパットは後十年ほどで勇退は間違いない。その年齢の頃のミリアムは30代。まさにこれからという中堅の年齢だ。ここでお嬢様に気に入られることは非常に大きい。

 すると……めがねを外された……

 そっとあごを持つ、手で顔の向きを変えるお嬢様。振り向かされた、その目の前にラルティーナがいる。

「よい顔立ちをしておる……」
「あ、ありがとうございます」
 緊張しているミリアム。怪しい誘惑に戸惑っている。
 それをかしこまって、目をつぶって静観するミウ。すると唇が迫る。

 ミリアムにそっと口付けするラルティーナ。ビクッと青年の口が反応した。

「そなたのためでもあるのだ」
 やさしい囁きだ。サディスト独特の低い声。
「……はい……うっ……」
 さらに股間が強く触られた。形を楽しむようにもてあそばれる。服の上からでもこれだけされると思わず反応してしまう。それをゆっくりと楽しむラルティーナ。お酒の匂いと香水の匂いとエロチックな汗のにおいが、混ざり合ってミリアムに襲い掛かる。

 興奮してきたミリアム。30過ぎの身体とはいえ、この青年を狂わす力は十分備わっている肉体だ。

「しっかり働いてくれれば……将来の見返りは約束しよう」
「あ、ありがとうございます」
「それに……」
 と言ってチラッと勃起したモノを見るラルティーナ。少しうっとりとしているようだ。

「こっちの見返りも……ね」
 服の上から、棒の部分から玉の部分をいじられる。ミウがいてもおかまいなし。
 ミウはあくまで性欲処理の道具だ。

「こ……光栄です」
「うふふ……うれしいことを言ってくれる」
 今の一言が気に入ったようだ。こういう一言で将来が決まってしまう場合もある。まさに一つ言い間違えば、すべてが水の泡。するとお嬢様は、もてあそんでいたアレから手を離した。

「約束じゃぞ……わかっておるの」
 今度はちょっと語気を強める。

 約束してしまえばこっちのものだ。さらに……

 ギュッと掴まれるアレ……脅しに近い。

「はっ……はい」
 ゆっくりとかみ締めて返事をするミリアム。ペニスとたまたまを拘束された以上、抵抗が出来ない。
 やはりラルティーナはやり手だ。

 恐ろしい女である。 
 ん? 以前にも似たような事があったような……

 さあ〜ややこしいことになった。

「連絡などはあのミウにさせよう……逐一報告するのだぞ」
「……わかりました」
 にっこりと微笑むラルティーナ。妖しい言葉が、怖さを伴って部屋中に響く。もう約束はしたので、ミリアムには用はないようだ。立ち上がって部屋を出る。サッとミリアムも立ち上がってお見送り。

 その時、お嬢様はもう一度ミリアムを見た。


 どうやらちょっと好意を持っている……このめがね青年に。
 特にめがねを外した時の表情がお気に入りらしい。

 お嬢様は別の部屋に向かった。身体を清め、ドレスを着替えてから晩餐会に向かうとのこと。

「では、定期的に伺いますので……よろしくお願いします」
 ミウが落ち着いて頭を下げる。
「ああ……こちらこそ」
 こちらは少し興奮気味だ。

 ミウも出て行った。

 ゆっくりと、ソファに座るミリアム。


 一呼吸した瞬間だった……

 ――ああっ! お、俺は……どうすればいいんだ!!――


 いきなり冷静さを失い、頭を抱える青年。
 シスアからは脅迫により、無理やり協力させられているミリアム。
 実は二回目に出会った時に、ラルティーナの弱みをみつけてと言われていたのだ。プリナも一生懸命頼んでいた。

 そして今度はそのラルティーナから、シスアの弱みを探れと言う……

 さらにパリス家の追放と暗殺にはあのラルティーナが関わっていることがわかった。

「お、俺は……なんて不幸なんだ」
 一歩間違えば本当にすべてを失う男。

 ああっ……まさにこの青年は人生の岐路に立たされている。

「なぜだ……なぜ、俺はこんな目に?」
 突然二人の女性から複雑なラブコールを受けるめがね青年。そして複雑な人間関係におびえるめがね青年。まさに複雑な女難の相が出ている。
 
 どうもこの男は、女性から絡まれやすいようだ。
後ろ ミセルバMトップ