お金とは力を持っている。いろいろな力の形があるが、借金という力だけは持ちたくないものだ。
 しかし、それに苦慮している女性は多い。あのロットの母親であるミシェスタシアもその一人。

 しかも自分の借金ではない。夫の借金だ。
 ギャンブル狂いのロットの父。ロットの兄もロットも、もうどうしようもないと思っている。普通なら離婚ものだ。だが、母であるミシェスタシアは別れようとはしない。


「ではこれで……」
 どうやら指輪を売ったらしい。生活費の足しにでもするのだろうか?
「ええ、お願い」
 指輪を質に入れてお金を借りているようだ。貧乏貴族のせつない現実。しかし、本来は貧乏でも、領主からの給付金で生活は出来るはずなのだ。年間、現代のお金にして1000万ほどはある。

 結構な金額である。だが、この程度では借金はまったく減らない。利息だけで消えていくような状態らしい。

 馬車に揺れながら袋に入ったお金を大事に持っているミシェスタシア。見事に膨らんだおっぱいほどの大きさの袋をしっかりと持っている。それにしても質素なドレスだ。家の紋章も刻まれていない。
 馬車にも紋章はない。平民の使う馬車だ。

 もう家柄をみせつけるのも恥ずかしいのかもしれない。夫はカジノ狂いで家はほぼ崩壊。ロットの兄は、見切りをつけて他の地方で家の名を捨てて働いている。そういう状態だった。そう思っていると、対照的に見事な紋章を刻まれた馬車が、屋敷の前にある。

 ――あ、あれは?

 ツス家の黒い蜂の紋章だ。

 ――どういうこと?

 不思議がる人妻。なぜツス家の馬車が……

「ミシェスタシア様でございますか?」
 側近らしき男が一人声をかけてきた。
「あなたは?」
「御当主リリパット卿のおいいつけでお迎えに参りました」
「迎え?」
「お話があるとのこと……ご同行いただけませんでしょうか?」
 男が言う。

 ――いきなりリリパット卿が? なぜ?

 考えるミシェスタシア。しかし……すぐに心当たりは思いつく。

「わかりました。支度をしてきますわ」
「はい、お待ちいたします」
 ミシェスタシアが屋敷に入る。

 ――まさか……

 キュッと身体が締まった……覚悟を決める人妻。

 そしてメイドに言う。
「ツス家の使いの者にもう少し待つようにいって頂戴」
「かしこまりました」
 
 どうやら身体を清めるつもりらしい。ミシェスタシアはある決意を固めていた。
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