「君は気が強い」 青年がにっこり笑う。 「僕は普通だと思っています」 少年の方は当たり前だという表情だ。それを見て今度は、女がにっこり。 「アレックス君は、将来大物になりそうね」 言われてちょっとはにかむアレックス君という少年。 「レックスさん、僕は悔しいです」 ミルクを飲みながら言う。ここは酒場だが、この子はミルクらしい。でも、この少年、この国では成人だ。 これでも。 バルカン王国では、成人年齢が早いのだ。現代のどこかの国とは違う。 「どうして?……」 「だってそうでしょう〜なんでお飾り組織なんていわれないといけないのですか?」 そう言われると困るレックス検察官。 ――お飾り……か……もう慣れたな。 検察官の資格を取って、もう十年以上。この間、中央にいるたびに言われてきた言葉なのだ。 「まあ、いろいろあるんだ」 法律の条文には、お飾り組織とはまったく書かれてはいない。しかし、実際に法律を勉強すると、王族検察官は、ほとんどの権限を上からの命令がないと何もできない、何もしてはならないことになっているのだ。それがアレックス君には、理解しがたい。 「アレックス君って、ほんとまじめよねえ〜」 やりとりを聞いていて、女がにっこり。この少年は、お気に入りらしい。 「あ、はい……」 ちょいと赤くなる。 ――まじめか……地方では、そのまじめさが役には立つ……しかしここでは。 地方なら、独自の捜査権で自由に動ける。まじめな性格なら、やりがいもある。 しかし、ここにいる時は、裁判の傍聴、法文書の勉強や、おさらい。 まるで研修だ。 退屈で仕方ないのはレックス検察官もだ。 一方のアレックス君は、女性になにやら一生懸命話をしている。 「ふ〜ん、普段は身分を明かせないの?」 「ええ、騎士や軍人と違うので……」 検察官は、むやみに身分を明かしてはいけない決まりがある。秘密主義で動くのがルール。対して、騎士や軍人は、堂々と軍服を見せつけ、威圧的だ。 そうやって治安を守っている。対して、こちらは服装も、ちょっとパリッとした平民タイプの服だ。 「アレックス君て、どうして、レックスさんにべったりなの?」 「え……あ、はい」 聞かれて今度は、アレックスとレックスとの関係を話している。この二人、いつも一緒らしい。というか、見習い検察官は、正式な検察官と共に付き添い、勉強や実務を兼ねるのが慣例。 ただ、アレックス君は、なぜかこの青年だけにべったりらしい。 理由は簡単。 アレックス、レックス…… そういうことだ。一字違いということが、親近感を覚えて……こうなったと、女性に言っている。 「ふ〜ん、でもそれだけ?」 「え?」 ミルクを飲みながらドキッとする少年検察官。 「あはは」 笑う女。ちょっと戸惑っている少年。 「ちゃかすなよ」 美声の青年が言う。三人に楽しそうに飲むお酒はおいしそうだ。 いや、ミルクが一人。 その様子をガッツはチラチラと見ていた。 どうやら、こちらは、ここではお開きらしい。 「飲みなおすから、来てくれよな」 あの暴れた皇族騎士が、まだつきあえという命令だ。ガッツ以下の地方騎士はしぶしぶだった。 ――まだ飲むのかよ……こいつは。 こういう酒はうまくない。すると、 「あの少年も、検察官でしょうか?」 「たぶん……な」 ガッツ騎士団長が、別の領主の騎士長に聞かれて答える。 「すごいですね、あの年齢で」 「法聖大全、全部暗記しているんだろうな」 法聖大全とは、この国の、法律が全部つまっている書物のことだ。裁判官や検察官は、これの内容を聞かれたら、スラスラ答えれるレベルにならないといけない。 「俺も、騎士になるとき、必要な法律は勉強したが、苦労したぜ」 別の騎士が言う。 「あちらは、そんなレベルじゃないぞ」 笑って言う騎士長。 「行きますよ、次に〜」 皇族騎士の若造たちが、命令する。 「あ、はい……」 低い声でガッツが答えた。 「やれやれ……」 まだ付き合わされるらしい。ガッツたちは、お互いに心で苦笑いしながらついて行くのだった。 |
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