王族検察官や、騎士たちが、飲んでいるころ……

 こちらでは、違う宴が始まろうとしていた。そして、その主役の人妻とは……

「お似合いですわ」
 メイドに言われて戸惑う。
「…………」
 複雑なミシェスタシア。

 ――なぜ? こんな格好を……

 薄いピンク色のドレスだ。キュッと胸の谷間を誇張させているのが最大のポイント。美を極めている女性が着ると、さらにこのドレスは引き立てられる。腰からお尻のラインも完璧というほど……

 悩ましい。

 だが、ミシェスタシアには意図がわからない。これに着替えてほしいとのリリパットの願いなのだが。

 今度こそ、身体を求められると思っている。
 しかし、その気配が見えない。そういう気配は、敏感に感じ取るのだミシェスタシアは。
 こういうのは、人妻の人生の経験の賜物だ。

 美しすぎる姿が、自然と身を守ることにつながっているのだ。

「お待ちでございます」
 御当主が、待ち焦がれている。いよいよ、ご対面する。

 
 夜のリリパットの屋敷……

 城門のような、場所には黒騎士がうろうろしており、中では犬も飼われている。侵入者は、これで退治できるというわけだ。ある意味、ミシェスタシアは逃げられない。

 目を一回つぶる人妻。そして、ゆっくりと目を開けた。

 意気込みが伝わってくる。
 それなりの覚悟が伝わってくる。
 没落したとはいえ、その家の当主というプライドも伝わってくる。

 ゆっくりと、ミシェスタシアは、宴に向かっていった……





 部屋に向かうと、数人の側近がいた。みな、若いクラスの者たちだ。雑用などもしなければいけない立場の連中だ。もちろん、あの女難の相を持っているミリアムもいる。

 一瞬、戸惑ったミシェスタシア。嫌な予感がしたからだ。しかし、その中を、気高く美しく、歩いていく。
 貴族の高貴な女性らしい気品いっぱいに満ち溢れている。その精錬された美しさにみなが見とれるほどだ。


 ――いい女だ。

 あの休憩所で、ラルティーナをいい女と言った少年がいた。その少年が思う。

 この少年の名は、ユダバ。

 化粧が濃い。
 唇が、赤い。
 派手好き。
 髪も赤系統の色だ。

 しかし、ある意味似合ってはいる。

 だが、腹には一物あるタイプ。腹黒い事も平気でやりそうなタイプとみた。ミリアムの横で、一緒に立っている。その中を堂々と歩いていくミシェスタシア。胸が微妙にプルンと揺れる。

 そして座っているリリパットの前にきた。

 軽く会釈する。

「そこに座ってくれたまえ」
 立って、中央の玉座のようなところに座るように促す。意図がわからないミシェスタシア。ゆっくりと言われたとおりにした。

「さっきも言ったとおり、ゆっくりと鑑賞させていただく。それが……条件だ。よいな……」
 鑑賞……不安になるミシェスタシア。だが、心は逃げない。

 この少年達と……かしら。
 もう、そこまで考えている。

 しかし、リリスと彼女は違う。

 パチンと指を鳴らした。不必要な明かりが消えた。そして、たいまつが灯される。たくさんある。
 これだけのたいまつ。時間が来るとかなり部屋は熱くなるはずだ。

 それでもひるまない人妻。

 するとリリパットはそのまま椅子に座った。そしてワインを注ぐようにしむける。ミリアムがゆっくりと注いでいく。

 ――あっ……

 かすかだろうか? 椅子が動いたような感触がある。椅子ごとだ。そして、それは当たっていた。

 ――動く? 椅子が?


 ゆっくりとだが、椅子が回転するように動き始めたのだ。

 ――どういうこと?

 意図がまだわからない。その様子をじっくりと見るリリパット卿。

 (なんだ? 回っているぞ?)
 ユダバも思う。

 回る、回る。ゆっくりと。世界が回るように。椅子下の周りに魔法陣のような模様がある。
 それごと一緒に回っているのだ。
 どうやら地下で動力を使って回しているらしい。
「…………」
 じっとしているミシェスタシア。これが鑑賞という意味なのだろうかと思っている。
 チラッとリリパットを見る。


 目が合った……思わずそらす。そのしぐさがまたよい。こういうしぐさは、ほしくても簡単には手に入らない。

 ――これだけでも……今の表情だけでも……甲斐があるというものだ。

 やさしい笑みを浮かべる御当主。ピクピクと筋肉を動かす50過ぎの肉体。
 この宴が終わったあとは、借金の一割にあたる金額を払うつもりらしい。しかし、ここから何をさせるのであろうか?

 するとゆっくりと回転していた、椅子が、ちょっとだけ加速した。一回転するのに一分ぐらいで回っている。

 ――熱い……
 ミシェスタシアや、他の側近たちも同じだった。これだけたいまつを灯していれば、熱い。


 
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