出発当日。

 城門を出る、小さな小部隊がある。ルビア准佐を筆頭とする盗賊討伐部隊だ。約20名ほどである。移動して各々の現地で人数を増やして行く予定らしい。馬と馬車と荷車などさまざまな荷物も一緒に移動するのだ。

 小さい部隊でも命じられた任務は大きい。盗賊目狐とその関係者を調査、殲滅して、完全に潰せというご命令。しかし、事はそう簡単ではない。

 ――前回の時も苦労したのよね。

 目狐の抵抗は非常に激しいものだった。こちら側にも結構死者が出たのだ。軍人である以上、覚悟はしておかなければならないことだが。前回は地方検察官との連合で行った。その時のルビアの所属は地方正規軍の一人。

 地方検察というのは、領主の指揮命令系統の配下の検察官のことだ。資格は王族が試験に合格などの手続きを得て与える。それを領主が指揮権、命令権で動かせるという仕組み。
 実際は領主の配下だが、あくまで資格は王家が与えるという仕組みになっている。

 対して、中央にいる検察は王族検察と言う。

 ――いい気持ち……

 風がルビアの髪の毛をさらさらと流す。複雑な思いもサッと流れていくようだ。
「ふう〜」
 久々にきれいな空気を吸っている。最近は忙しくて空気がおいしいと思うことさえなかった。馬に揺らされる女体が艶やかに見える。20名ほどの部隊を引き連れてこれから討伐に向かうルビアたち。
 部下はほとんどが男性だ。新米兵士から、中堅までいろいろである。さらに年上の部下までいるので結構気を使う。

 ――向こうで副官を二人任命出来るって言ってたわね。

 ここにいる20名ほどの兵士はみな下っ端だ。軍のエリート兵隊学校を卒業した者はいない。勉強しないと、ルビアの年齢ぐらいではこういう立場にはなれない。先頭にルビア、そしてその後ろに兵士たち。最後尾に使用人という配置だ。馬車が数台一緒に同行。戦いの兵器や、食料などが積まれている。

 ――殿下……

 ちょっとだけさびしいルビア。夫ともしばらくお別れだが、ポポのこともちょっと気になっていた。
 とにかく離れてよかったと思っている。あのまま関係を続けていたら、大変なことになっていたのは間違いないからだ。あの年齢は、特に年上には敏感な時期でもある。

 風に吹かれながらじっと空を見るルビア。

 これからのことをゆっくりと考えていた。今日はとりあえず、港へ向かって泊まる予定だ。



 その夜のことだ。

「ラミレスのところへ泊まるだと?」
「は、はい……」
 クリティーナが困っている。ポポが今日はもう遅いのでラミレスの屋敷で一泊するということらしい。
 あれからポポは、ラミレスと一緒に屋敷に向かった。当然、ジトとクリティーナも一緒だ。外出は禁止されているような状態だが、ラミレスの屋敷だけは、特別にいいらしい。まあ、お城からすぐなので心配する必要もない、それに今、ラミレスの屋敷は厳重に警護兵が多くいるのだ。
 あの事件以来、王の命により、ラミレスの屋敷は特別警護されている。盗賊団の一件に巻き込まれてしまった屋敷。なぜ、屋敷が狙われたのかは、お城の人間も王家の人々もわからない。
 そこが、逆に不安というわけだ。
 もう一度もし、襲われて、何かあれば国家の権威にかかわる。
 
 王が気を使うのは当然なのかもしれない。
 
 そして、夜もふけてきたので城へ帰る事を促したのだが、
 今日はここに泊まるとわがままを言う殿下。

「ふふっ、で……結局引き下がってきたのか?」
 リアティーナ王妃は、いつものことだと思っているようだ。
「厳重に警戒は怠っておりません。が、やはり報告しておくべきかと思い……」
 普段ならこんな細かいことまでいちいち言う必要もない。
 しかし、今は別だ。
「まあ、よい。あの屋敷は二度と襲われてはならぬように警護しているからな。わが国の威信をかけて……ならば安全であろう」
 二度目はやらせない、そういう決意が見える王妃。今回のことは屈辱きまわりないことなのだ。
「そなたたちも大変じゃな、わざわざそこまで気を使うとは」
 ごくろうさまと言いたい王妃。
「いえ、当然のことでありますから」
 ジトがしっかりとした口調で答えた。
「警護の者はいるのであろう? 無理せずともそなたたちは明日にそなえるがよい」
「はい、ありがとうございます」
 二人はラミレスの屋敷に戻って、今日は一緒に泊まるつもりだった。
 王妃もそのことがわかっていて、警護が十分なら、お前たちは自宅で休んでもいいと薦めている。

 二人は一礼して退室した。だが、おそらくラミレスの屋敷に向かって泊まるに違いない。

「ポポも遊びたい盛りなのだろうな」
「あの年齢は、閉じ込められれば、ますます反抗する時期だと思います」
 側にいる女性がぼそっとつぶやく。
「うむ……とにかく身の危険さえなければ、どこにいてもよい。どのみち、城内も安全とはいえぬ」
 堂々と盗賊が中に入り込むお城を安全とはいえないという王妃。たしかにそうだ。

「ところで……ルビアたちは、明日の朝、港から出航の予定であったな?」
「はい……ラルクルの街へ向かうということです」
「そこに盗賊団がいるのか?」
「情報ではそのように聞いております」
 それを聞いて想うリアティーナ

 ――ルビアには……成功してもらわなければ……ならぬ。

 王妃にとって、ルビアは女性の社会進出のためには必要な人材であった。
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