三日後……

 なんとか港に到着した殿下御一行。
 ここが海を隔てたバルカン王国の王都に次ぐ大きな街ラルクルだ。
 港から来る貿易船がたくさん停泊している。あらゆる商品がここから流通するところである。
 王国にとってここは貿易の拠点でもある。

 ――やっと……ついたわ。

 へとへと状態の女軍人。肉体は疲れていないが、心はもうぼろぼろだ。
 理由は簡単。

 殿下である。

 あれから船の中でいたづらはするわ、船内のルビアの部屋にいきなり入って、お尻を触るわ……
 気遣いだけで一苦労。幸いエッチするような状況まで追い込まれてはいない。しかし、触られるたびに身体が反応してしまうのはなんとなく感じていたルビア。

「いかがしますか?」
 兵士の一人が聞いてくる。
「殿下のこと?」
「はい」
 気になるようだ。それはルビアも同じ。ただ、海を渡ってきた兵士はすべて王都に帰ることになっている。そこで一緒に連れて帰るという方法もあるのだが……

 これがどこかの平民の息子ならそれで十分。だが、殿下という立場上、それでは困るというわけだ。
 ルビアの連れてきた部下は、殿下を直接警護するような身分の者ではない。そのような者に警護をまかせたりして、もしも何かあれば、後で大問題にもなる。

「とにかくあなたたちは船で王都に引き返してちょうだい、後は私が対処します」
 港で海をヒマそうに見渡しているポポ。まったく当人はのん気なものだ。
「わかりました、では……御武運を……」
 敬礼する兵士。

 ――さ〜これからどうしようか。
 うらめしいルビア。殿下がいると非常に困る。いろいろやりにくくなるからだ。そう考えていると、向こうから十人ぐらいの軍人たちが近寄ってきた。馬に数人が乗っている。

 男が二人に女性が一人。さらに数十人の兵士が一緒だ。この人たちが幹部クラスらしい。

「ルビア殿!」
 馬を下りて、一番若い男がルビアに駆け寄る。さわやかそうな青年だ。
「久しぶりね、ビルバーン」
「は、はい」
 うれしそうな男。この男が以前の部下の一人。ビルバーン中尉。それにあと二人……

「ルビア准佐、お久しぶりでございます」
 こっちは中年風の男だ。誠実そうな顔をしている。名はミルック。そして最後が女性。
「初めまして、スタシアと申します」
 きつそうなタイプの女性だ。ロングの髪はなんとなくルビア風でもある。でもルビアより大きい……

 おっぱい。お尻も大きそう。はちきれんばかりの身体つきが、魅力の女性。

「よろしく。今から大変だと思うけどね」
 疲れがちょっと見えるルビア。さて次は迷惑少年ポポの紹介だ。チラッとポポがいたところを見る。

 ――あれ?

 いない!――

「あっ……」
「どうかなさいました?」
 なんてことだ、じっとしていてと言っておいたというのに……

 いきなり問題発生。

 ――まいったわ……
 次にチラリと三人を見る。ルビアは事情を話し始めた。



 じっとしているわけがないポポ。港もめずらしいが、街も面白そうである。うろうろしていくつかに枝分かれしている港の桟橋についたポポ。見つかるまでちょっと探検しようということらしい。
 白い派手な服だ。いかにも貴族の息子といった感じ。

 さらに服にはしっかりと王家の紋章が入っている。これを見られると実際困ると思うのだが……
 どうやらそこまで気が回ってないらしい。
 歩いていくと小さな小屋のようなところが目に付く。

 ――あそこならしばらく隠れそうだ。

 そう思って近づくと……

「あ〜ヒマねえ〜」
「ほんと」
 女の声がする。少女のような声も混じっている。ドキッとするポポ。小屋の中で会話しているらしい。

 盗み聞きはよくないと思い、その場から離れようとする……

「今度いつ忍び込むのかな?」
「いつだろ? 姉さん、しばらく遊びたいって言ってたよ。アレだけの財宝ちょろまかしたんだからさ」

 忍び込む? 財宝?

 これは聞き捨てならない言葉だ。

「あいつら怒ってるだろうなあ〜」
「単純よねえ〜目狐って馬鹿多そうだもん〜」

 ――目狐? え……ええ?

 ポポも目狐という名前は知っている。ルビアが盗賊団として追っているということも……

 ――おいおい、ひょっとして……

 近づくポポ。これは非常に大事な情報源にもなると判断。しかし、ココからが甘かった。
 耳を当てて小屋の会話を聞こうとすると……

 ガチャッ!――

 物音をたててしまったのだ! ハッとする二人。サッと小屋を出る。さすがは盗賊娘。動きが早い。

「だれ!――」
 ポポをサッと見つける!

「あ、あの〜」
 困ったポポ。とぼけようとするが……
「あんた、誰よ?」
 少年とわかりちょっと強気の二人。片方はチャイナドレス風の派手な服。太ももが非常にまぶしい。 もう片方の少女は……

 おいおい、どこかの遊び人娘のようだ。へそだしルックに派手な赤い靴。お尻のあたりに、金色のリボンというすごい組み合わせ。

 じりじりと近寄るチャイナドレス人と遊び人。その雰囲気に呑まれる殿下。

「ぼ、僕を誰だと思ってる!」
 言い返す少年。だが、二人の娘はびくともしない。
「あ? なんだって?」
 遊び人少女が言い返す。ちょっとびびるポポ。皇太子が盗賊娘にビビッている。もう一人の女は服装を見ているようだ。当然紋章が目に付いた……肩と胸にでっかく載っていればだれだって気づく。

 ――あれ? どっかでみたような……

 みたことあるけど、この場ではわからない女。
「僕の名はポポだ!」
 怒った顔で叫ぶ! しかし二人の女はまったく動じない。ポポという名はあまりにもありふれていた。

「ふ〜ん、あんたポポっていうの。ここでなにしてるの?」
 生意気ね〜っていう表情だ。さらにポポに近づく。驚いたのはポポの方だった。今までやさしい女性ばかりに接してきたポポ。自分にたてつく女は、母と姉達ぐらい。しかしそんなことはこの少女たちには通用しない。

「会話の内容……聞いたの?」
 にらみながら尋ねる遊び人娘。怖いポポ。

「あ、あのなあ! ぼ、僕を誰だと思ってる!――」
 ついに伝家の宝刀を切り札に……だがまだ言わない。

「だから誰よって聞いてるのよ〜」
 まったく動じない。盗賊娘にこれぐらいでは意味はないようだ。
「ぼ、僕の名は……」

 言いかけた時だ!


「ポポさま! ポポさま!」
 ルビアだ! 走ってくる。ルビアと下級兵士数人も一緒だ。あえて殿下とは言わないで。
 それを見て目の色を変えた盗賊娘の二人。いきなり女軍人御一行が、突然こっちに近づいてくるではないか! はっきりいってポポなんかより危険だ!

 さっと逃げる二人! 逃げ足も速い!

「ルビア!」
 叫ぶポポ!
「あの二人! 捕まえて!――」 
「え?」
 ルビアが少女と女二人を見る。もうかなり離れている。だが、なんとなく意味はわかったようだ。

 ――盗賊団の一味か?

 勘が鋭いルビア。相手の身のこなしですぐにピンとくる。

「あの二人の女を追って!」
「はい!」
 さっそく部下達に命令する。そしてポポの側にかけよる。

「あいつら、目狐のこと話してたよ」
「……そうですか」
 逃げた方向をなんとなく見る……

「うん、きっと悪い奴らだな」
 いきなり立場が有利になって偉そうになる少年。変わり身が早い。
「ポポ様……」
 ルビアがチラッとポポを見る。説教モードに入ろうとするルビア。これだけ勝手にされると正直たまったもんじゃないからだ。

「さ、行こうかルビア」
 当の本人は何事もなかったように戻ろうとする。
「後でゆっくりお話がありますので」
 ちょっと怒っているようだ。
「二人だけで?」
「え?」
 そう言われるとビクッとする女軍人。サッと身体が防御モードに変化した。

「うふふ……」
 ニコリ笑うポポ。こういう風に持っていかれると非常にやりにくい。
 とにかくポポは無事だった。

 ルビアはちょっとだけ安心。後はあの二人の女が捕まるかどうか……
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