次の日。
 殿下はまたもやラミレスの屋敷へ向かった。もちろんルビアその他も一緒だ。メルビンだけ除いて。
 なんでも身体の調子が悪いとかで休んでいる。この男よくあることらしい……なんでこんな不健康な男が警護役なのか不思議でもある。だが殿下にとってはあまりそのようなことは興味がない。
 それよりも……それよりもだ。

「おう、また来たの」
「ふふふ、ちょいと話があるんだけど」
「じゃああっちで聞こうか」
 ラミレスとポポはまたいつもの別の部屋へ向かう。今回も同じ部屋で待ちぼうけの警護役の面々。


「え?もう効いた」
「うん」
「そりゃあよかった」
 だがラミレスはまだ半信半疑だ。そんなにはやく効くものなんだろうかというところだろう。
「なあなあ、それでお願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「まだあるのか?この薬」
「ああ、あるけど」
「くれないか」
 じっとポポを見るラミレス。
「何に使う?」
「え、いや……もっとルビアにさ」
「うそつけ」
にやりと微笑むラミレス。
「ほ、ほんとだって」
「他の女、メイドたちってとこか?」

 ――ギクッ――す、するどい。

「ふふふ、お前の考えそうなことだな」
「う、うるさいなあ」
 見透かされて頭を掻く殿下。
「まあいいや、でも本当に効いたのかよ?」
「だって昨日さっそく……いいモノ見れたし」
「ふむ……」
 ラミレスは偶然と見ているらしい。冷静なタイプのラミレス。対して殿下は気が早い。
「実はある事はあるんだが、もう残り少ないんだよ」
「え?」
「いまさ、この薬の成分調べてるんだ、だからもうちょっと待てって」
「調べてる?」
「ああ、調合して作れないかと思ってね」
 ラミレスは小さな実験室を持っている。そこでいろいろなモノを作るのが好きなのだ。

「そう〜じゃあ仕方ないな」
 調合して作ると言う事にはあまり興味がないポポ。出来上がったモノを苦労も分からずに平気で使うタイプ。まあポポらしいといえばそうだが。
「ところでお前どうやって飲ませてるんだ?」
「あ、ああ、それはね」
 殿下が説明を始めた。うんうんとうなずくラミレス。

 ――なるほどね……でも。

 ラミレスはまだ疑問に思っている。混ぜた薬を全部一気に体内に入れば確かに効果は早いかもしれないが。もう殿下の方は、あの薬のおかげだと決め付けている。とにかくとにかく薬を媚薬をくれと言わんばかりの殿下。

「わかったよ、同じのはやれないが別のをあげるよ、だけど条件がある」
「条件?」
 にこっと笑うラミレス。なにか考えがあるようだ。彼は棚の薬品がずらりと並んだ所から一つの小瓶を取り出した。





「この国は穏やかでいいですね」
 めがねをピクッと動かしながらクライシスがにっこりと微笑む。
「あら、あなたの国は穏やかではないの?」
「わが国はいろいろとね、外交官という職にいると嫌なことも聞こえてくるのですよ」
「ふ〜ん、まあどこも同じだとは思うけど」
 ちょっとそっけないクリティーナ。

「ねえあなた本当の目的はなに?」
「え?」
「目的よ目的。だいたいどう考えたっておかしいもの」
「特にありませんよ、こちらの王にご報告している事がすべてです」
「そう」
 ますますそっけないクリティーナ。信じる気もないらしい。

 ――まったく、見えてこないのよねえこの男の中身が。

 にこにこと笑ってはいるが、腹の中を決して見せないタイプ。クリティーナにとってはますますいらだつのだろう。だが外交官としてはその気質は必要なことだ。ルビアはこの部屋を見渡している。
 二回目の屋敷……軍人は一度行ったところはよく覚えているものだ。そういう風に鍛えられている。
 だがじっと待つのはもう飽きてきたようだ。そろそろ何か動きがないとたいくつしそう。
 と思っていた時、


「帰るぞ皆の者」
「あ、はい」
 ルビアがハッとする。殿下に言われてスッと立ち上がる大人たち。ぞろぞろと殿下の後をついていく。
屋敷を出て行く御一行。それをラミレスは屋敷の部屋から見つめていた。
 
 じっと、ルビアを見ながら。

 ふふふ、さーてと、今宵は別のことで……楽しみだな。なにやら今日の夜殿下と約束したらしい。まちがいなくわかっていることは……二人は眠れない一夜を過ごすことになると言うことだ。


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